深澤辰哉に出会ってしまった衝撃…。ドラマ『わたしの宝物』の冬月役が今までにないハマり役になったワケ。解説レビュー
松本若菜主演のドラマ『わたしの宝物』(フジテレビ系)は、「托卵(たくらん)」を題材に、”大切な宝物”を守るために禁断の決断を下した主人公と、その真実に翻弄されていく2人の男性の運命を描く愛憎劇だ。今回は、本作で冬月稜役に扮したSnow Man深澤辰哉の演技に着目して、作品の魅力に迫る。(文・加賀谷健)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】
【著者プロフィール:加賀谷健】
コラムニスト・音楽企画プロデューサー・クラシック音楽監修
クラシック音楽を専門とする音楽プロダクションで、企画・プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメン研究」をテーマに、“イケメン・サーチャー”として、コラムを執筆。
女子SPA!「私的イケメン俳優を求めて」連載、リアルサウンド等に寄稿の他、CMやイベント、映画のクラシック音楽監修、解説番組出演、映像制作、テレビドラマ脚本のプロットライターなど。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。
深澤辰哉“冬月”の声の魅力を可視化する
外面だけはいい夫・神崎宏樹(田中圭)にふっと嫌気がさしてきた主人公・神崎美羽(松本若菜)が、最寄りのバス停に降りそこねる。「まいっか」とぼそりつぶやいた彼女が導かれるように入ったのは、甘く懐かしい記憶がある図書館。
通路に置かれたカメラが、図鑑のページを丁寧にめくる美羽をサイドから捉え、ゆっくり前進移動する。『わたしの宝物』(フジテレビ系)第1話で最も印象的だったのがこのトラッキングショットだった。カットが持続する中、「夏野」と彼女の旧姓を呼ぶ男の声がふいに画面をみたす。図書館の通路をゆったりと進むカメラの動きは、男の声を視覚化しているようだ。
美羽は視線を上げて辺りを見回す。続いて呼び声の持ち主である冬月稜(深澤辰哉)が歩いてくる。冬月は通路に立ち止まり、さわやかな笑みを浮かべて「夏野」ともう一度、彼女の名を呼ぶ。
トラッキングショットを含めてここまで5カット。そのすべてに、声の持ち主である冬月の陰影が行きわたっている。魅力的な声の持ち主である冬月=深澤辰哉の初登場を、周到かつ律儀なカット割が実にうまく演出している。
『あなたがしてくれなくても』(2023年)もそうだったが、フジテレビの「木曜劇場」枠は、こういうさりげない場面で、控えめながら映画志向の演出が施される。
『わたしの宝物』第1話では、上述した前進移動を景気付けとして、もう一歩踏み込んだ、映画的な演出が見られる。それは、第1話中盤で美羽が再度図書館に行く場面である。
前夜に宏樹と口論になり、気持ちが穏やかでない美羽が走り去るところを図書館員と打ち合わせしていた冬月が見つめる。図書館員の台詞途中でカットが替わることで、美羽と冬月の間だけで共有する声がいかに大切なものかが端的に示される。
バス停前に場面が切り替わると、ここでも冬月が画面外から「夏野」と美羽の旧姓を呼ぶ。美羽が振り向くと、酢昆布を見せる冬月の手元が写る。次のカットで「懐かしいでしょ」と誇らしげな冬月の顔から酢昆布にピントが合うのだが、ピントが合っていないときでも、つややかな深澤辰哉の存在は、視聴者の心をいちいちときめかす。