異色の終活青春グラフィティ
『一橋桐子の犯罪日記』(2022)
原作:原田ひ香『一橋桐子(76)の犯罪日記』
脚本:ふじきみつ彦
出演者:松坂慶子、岩田剛典、長澤樹、宇崎竜童、草刈正雄、由紀さおり、木村多江、富田望生など
【作品内容】
主人公の一橋桐子(松坂慶子)は一緒に暮らしていた親友が病で亡くなり、悲しみの淵に沈んでいた。
身寄りもなく、年金とバイト収入で暮らしも楽ではない中、テレビで見た逮捕者の「刑務所に入りたくてやった」という供述に心を奪われた桐子は終のすみかを「刑務所」に設定。できるだけ人に迷惑をかけず逮捕される方法を模索し始める。
【注目ポイント】
松坂慶子演じる独居老人の桐子が、生活苦を理由に刑務所で余生を過ごすための活動=“ムショ活”に励む姿を描いた終活青春グラフィティ。コメディタッチで進んでいく物語だが、桐子が置かれた状況はなかなかに笑えない。
一緒に暮らしていた親友が亡くなり、身内もいない桐子は天涯孤独の身に。年金とバイト収入でどうにか食いつないでいるが、生活は決して楽じゃない。そんな桐子の姿に「身につまされる」と話題になった本作。
それでも深刻になりすぎず、視聴者も肩の力を抜いて観ることができたのはキャラクターの力が大きい。なるべく人に迷惑をかけずに捕まる道を模索するが、不器用で失敗ばかりの桐子は見ていてハラハラドキドキするけれど、なんだか微笑ましいのだ。
ふじきみつ彦の温かみのある脚本と、松坂のチャーミングでコミカルな演技により、桐子がつい応援したくなるキャラクターに仕上がっていた。
そんな桐子だから、前科があるらしいパチンコ屋の店長・久遠(岩田剛典)、プロサーファーを夢見る女子高生の雪菜(長澤樹)、闇金業を陰で営む寺田(宇崎竜童)など、知らぬ間にいろんな人を巻き込んでいく。
年齢や置かれた立場もバラバラな彼らとの不思議な友情も見どころ。先行きの見えない現代を生き抜いていくためには、桐子のような愛嬌が必要なのかも…と思わされる。