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世界が心を打たれたロードムービー

『風の電話』(2020)

西島秀俊
西島秀俊Getty Images

監督:諏訪敦彦
脚本:狗飼恭子、諏訪敦彦
出演:モトーラ世理奈、渡辺真起子、三浦友和、山本未來、西島秀俊、西田敏行

【作品内容】

 東日本大震災から8年後、震災で家族を失った17歳の少女・ハル(モトーラ世理奈)は、広島で叔母と暮らしていた。ある日、叔母が倒れたことでハルは自分の周りから誰もいなくなってしまうと不安になる。

【注目ポイント】

 岩手県大槌町に実在する電話ボックス「風の電話」をモチーフに、海外でも高く評価されている諏訪敦彦が前作から18年ぶりに手がけた本作。第70回ベルリン国際映画祭ではジェネレーション14プラス部門に出品され、国際審査員特別賞を受賞した。

 9歳の頃、震災で家族を失った17歳の少女・ハルは、故郷を離れて広島の叔母と暮らしていた。頼れる人が叔母しかいない状況のなかで、ある日、叔母が突如倒れてしまう。震災から8年の年月が経っても喪失感に苛まれているハルに不安が襲い掛かる。そんな彼女は、両親の記憶をたどるように故郷・岩手県大槌町へと向かう。

 本作はロードムービーでありながら、リアリズムに根ざした人間ドラマでもある。ハルの心にくすぶる失われた家族をめぐる決着のつかない思い。心の整理をつけるため東北へと向かったハルは道中、様々な人たちと出会う。

 広島で台風による被災を経験し、家庭が崩壊した公平(三浦友和)、福島第一原子力発電所で働いていた森尾(西島秀俊)、そして原発事故による被害者の今田(西田敏行)らだ。彼らもハルと同様、災害や震災の被害者であり、それぞれが心に傷を負いながらも必死に生きていた。ハルはそんな彼らが抱える悲しみや孤独、そして優しさに触れたことで少しずつ変化をもたらしていく。

 主人公・ハルを演じたのは女優でモデルとしても活躍しているモトーラ世理奈。震災という未曾有の悲劇を背景に、内向的な少女が家族を失ったトラウマを抱えながらも、その思いを表に出せない少女を見事に表現している。また、諏訪敦彦作品の常連俳優でもある三浦と西島に加え、福島が故郷でもある西田のシーンはほとんどがアドリブだったそうで、怒りを含ませながら複雑な心境を語るシーンは圧巻だ。

 物語の鍵となる「風の電話」は、岩手県大槌町に実在する電話ボックス。電話は回線に繋がっておらず、故人への思いを伝える場所として設置され多くの人々が訪れているという。ラストシーンでは、この風の電話にたどり着いたハルが胸の中に押し込めていた感情を初めて外に解き放つ。

 モトーラのアドリブだったというシーンでもあり、その姿はタイトルを見事に集約しているといえる。

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