日本社会の歪みに切り込んだ異色作
『福田村事件』(2023)
監督:森達也
脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦
出演:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、ピエール瀧、豊原功補、柄本明
【作品内容】
1923年9月1日、関東大震災が発生。混乱する福田村では朝鮮人に対する流言飛語が加速し、人々は疑心暗鬼に陥る。
やがて自警団は暴走し始め、朝鮮人と疑わしい人々を殺害。香川の行商団も讃岐弁によって疑われてしまう。
【注目ポイント】
本作は関東大震災から100年目にあたる2023年に公開。歴史の闇に葬られていた“福田村事件”を題材に、社会派ドキュメンタリー監督で知られる森達也が劇映画として初めてメガホンを取った作品。出演は井浦新、田中麗奈をはじめ、永山瑛太、東出昌大、ピエール瀧、豊原功補、柄本明など演技派俳優が名を連ねた。
関東大震災は1923年9月1日、関東地方全域をマグニチュード7.9規模の地震が襲った。首都圏では震度6強~7に相当する激しい揺れによって住宅の倒壊や火災による被害が相次ぎ甚大な被害をもたらした。この震災による死者、行方不明者は10万人以上にのぼるといわれている。
そんな地震直後の大混乱の中、朝鮮人に対するデマが広まった。それは千葉県・福田村(現野田市)でも広まっていく。そもそも、朝鮮人虐殺が何故、起きてしまったか…。その背景には、さかのぼること震災から13年前、日本と韓国が併合したことで日本は朝鮮半島を植民地として支配したのが原因だった。
日本には多くの朝鮮人が移り住み、朝鮮人に対する差別が起きていたのだ。朝鮮人は何をするか分からないという偏見は不安へと変わる。人々は「朝鮮人が略奪や放火した」「朝鮮人が集団で襲ってくる」などの根拠のない噂さえも信じてしまい、一部の民衆が暴徒化して朝鮮人狩りが始まった。
この時、香川から来ていた薬売りの行商団は、讃岐弁が朝鮮訛りと誤解されたことから子供や妊婦を含めた9人が犠牲になってしまう。この“朝鮮人狩り”によって犠牲になった者は6,000人以上にも及ぶと言われている。
『福田村事件』は、ドキュメンタリー作家として活躍してきた森監督の視点から、未曾有の大震災のなかで起きた社会問題への深い洞察と当時の日本社会の歪み、そして不安と恐怖が高まった時にもたらす集団心理の恐ろしさを映し出しており、観客が歴史の一端に触れられる渾身の一作と言えるだろう。