卓越した演技力を持つ裏主人公
柄本佑(藤原道長)
吉高由里子が演じる主人公・まひろの相手役、道長を演じたのは、名優・柄本明を父に持つ、サラブレッド・柄本佑。柄本が道長を演じたことで、これまでのイメージとは一味違う道長が生まれた。
史実において道長は傲慢な権力者であった、という見方もあるが、本作における道長はほんわかとしており、温厚な性格で、どこかまひろの尻に敷かれているようなところがある。このような道長が生まれたのも柄本の卓越した表現力の賜物だろう。
道長の最大の見せ場は、第10回「月夜の陰謀」で、まひろから世の歪を正すことを託されるシーンではないだろうか。この場面では、まひろとは片時も離れたくないという道長の一途な思いと、道長に出世してもらい、直秀のような死に方をする人を出さない世の中にしてほしいというまひろの思いが月明りの中で複雑に絡み合う。
特に、道長が「一緒に行こう」という言葉とともにまひろを抱きしめるカットは素晴らしかった。柄本はまひろへの愛情、自身の宿命の重さを表情だけでなく、全身を使ってダイナミックに物語っていた。
実権者の息子である自身の宿命を理解している達観した面をもつ道長だが、若さゆえの無防備さを度々露呈させる。まひろに向けるほとばしる愛情を抑えきれない苦しさがひしひしと伝わる演技は、筆者を含む多くの視聴者の心を動かした。
また、上記のシーンに匹敵するもう1つの道長の見せ場として、第44回「望月の夜」における望月の歌がうたわれるシーンを挙げたい。道長が祝宴の大舞台にひとり立ち、この歌をうたった後、一堂による唱和は圧巻であった。また、この大舞台で、道長はまひろに表情だけで思いを伝えようとしていたが、何を伝えようとしたのか確かなことはわからない。
しかし、柄本のあたたかみがある表情や照れくさそうな顔つきに、「俺たち、ここまで来てしまったな。愛しているよ」というメッセージを読み取ったのは筆者だけではないはずだ。
(文・西田梨紗)
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