”無邪気な凶悪性”に震える
『シティ・オブ・ゴッド』(2002年)
監督:フェルナンド・メイレレス、カティア・ルンド
脚本:ブラウリオ・マントヴァーニ
【作品内容】
舞台はブラジルのリオデジャネイロ。その中でも最貧困地区のフェヴェーラと呼ばれるスラム地区に生きるストリートチルドレン達による抗争劇を描いている。
本作の最大の特徴は、抗争の主体が少年たちであるという点だろう。主人公のリトル・ゼ(幼少期はリトル・ダイス)もまた過酷な境遇を生きる少年たちの1人。リトルは年上の青年たちに犯罪をけしかける。この時まだリトルは10歳にもなっていない。
18歳になり、リトル・ゼと改名したリトルは拳銃を片手に街の若き盟主となっていく。しかし、トップに君臨したことでリトル・ゼを取り巻く環境は一層、厳しさを増していく…。
【注目ポイント】
21世紀以降に作られたギャング映画の中でも、金字塔として各方面から高い評価を受ける本作。特筆すべきはキャストの大半は本当にストリートに生きる素人達であることだろう。アドリブ演技が多く、作品に稀有なリアリティを付与することに成功している。また、本作でアドリブが多いという事実は、演じた少年たちが劇中で描かれているような過酷を実際に生きているということを雄弁に示しており、観ていて胸がつかれる。
本作は、映画産業において辺境の地であるブラジル発の作品でありながら、アカデミー賞で監督賞を始めとした複数の部門でノミネートされるなど、方々から高く評価され、テレビドラマ版や『シティ・オブ・メン』といった派生作品も作られた。
繰り返しになるが、この映画の最も恐ろしいところは、血で血を洗う抗争を繰り広げるのが、年端もゆかない少年たちである、という点に尽きるだろう。最低限のモラルを学ぶ前から犯罪と暴力に手を染めてしまった彼らは、加減というものを知らないうえに暴力以外に、状況を打開するための選択肢がない。そんな少年たちが市街地で銃撃戦を展開するのだからこの上なく恐ろしい。
全編に渡って本作には“無邪気な暴力性”がこれでもかと焼き付けられている。描写がリアルであるとはいえ、物語は非常に突飛であり、寓話性が高いので、フィクションの様に感じてしまうが、エンドロールには各メインキャラクターのモデルになった少年たちの写真が登場。驚くべきことに大半が実際にあったことを映画にしたことが分かる仕組みになっている。