フィクションであることも忘れさせる杉咲花の演技力
『海に眠るダイヤモンド』は、2018年の東京と70年前の高度経済成長期まっただなかにある長崎県・端島を舞台に、時を超えた愛と友情、家族の絆が描かれるヒューマンドラマだ。
近年、数々の話題作を手がけてきた野木亜紀子が脚本を務め、塚原あゆ子監督、新井順子プロデューサーらとともに、映画『ラストマイル』と同じ布陣で世に放たれた本作。
ホストとしてあてもなく暮らす玲央(神木隆之介)に結婚を持ちかける謎の老婦人・いづみ(宮本信子)の関係性を巡る現代パートと、戦後まもない端島が辿った歴史を紐解く過去パートが交錯する、壮大で骨太なストーリーが描かれている。
そんな物語のなかで杉咲花が演じるのは、端島で食堂を営む両親の手伝いに勤しむ看板娘・朝子。忙しない毎日が続くなかでも健気に両親を支えるしっかり者で、外勤として端島で働く鉄平(神木隆之介)に子どものころから恋心を抱きながらも、想いを伝えられずにいるピュアな一面も併せもつ。
そんな朝子を演じる杉咲花の演技が一際、印象深く記憶に刻まれるのは、映像に映る彼女の振る舞いがあまりにも自然体だからだ。
不意に見せる表情や、知らず知らずのうちにやってしまう仕草。ささやかで無自覚な行いが目の前に積み上がっていくと、視聴者はフィクションであることも忘れて、作品の世界で生活を営むありのままの人物として彼女を受け入れてしまう。