杉咲花“朝子”のベストシーンは?
『海に眠るダイヤモンド』に登場する朝子も、演じ手である杉咲花のマジックによって、当時、あの場所で生きたひとりの女性としか思えない瞬間がいくつもあった。
その1つが第5話で、朝子が鉄平の腕に腕章をつけてあげるシーン。賃上げを巡って炭鉱員たちと鷹羽鉱業側が対立するなか、仲裁しようと間に入って腕を負傷してしまった鉄平は、朝子に、自分の代わりに毎朝、腕章をつけてほしいとお願いする。
朝子は最初、恥じらいからか黙ってしまったものの、鉄平が「忙しいか…」と名残惜しくも諦めようとすると、口早に「あ、忙しくっても腕章くらいつけれる」と応え、目を逸らしながら「つけてあげるけん」と呟き、小さな微笑みを浮かべてその場を離れる。
あとのシーンで、職場に出勤する鉄平を見送るときに満面の笑みで手を振る姿と幸せを噛みしめるような表情は、朝子の人生を丸ごと経験していないと表現できないのではないかと思うほど、真に迫ったものだった。
ドラマ内で杉咲花の自然体な演技が見られるシーンを挙げれば、枚挙にいとまがない。しかし、第5話の鉄平と朝子の初々しいやりとりは、以降の彼らふたりの距離をぐっと縮める印象深いワンシーンであり、あのころの端島での日常の一幕として、確かに存在していたと信じたくなる風景だった。