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豊かな表現力で役者としての凄みを発揮

伊藤沙莉『虎に翼』(NHK総合)

伊藤沙莉
伊藤沙莉【Getty Images】

 60年以上の歴史を持つ朝ドラの中でも近年稀に見る傑作との声が多く上がった2024年上半期放送の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合)。本作で、日本初の女性弁護士の一人である三淵嘉子氏をモデルにしたヒロイン・寅子を演じたのは伊藤沙莉だ。

 男だらけの法曹界に身を投じ、様々な壁にぶつかりながらも、常に「はて?」と世の中で当たり前とされていることに疑問を持って、弱い立場の人に寄り添い続けた寅子。重いテーマに真正面から切り込んだ意義のある作品ゆえに、胸が苦しくなる展開もあったが、それでも最後まで目が離せなかったのは伊藤の力が大きい。

『女王の教室』(日本テレビ系)でいじめっ子を熱演していた時から、その実力は広く知られていた。だが、彼女の役者としての凄みを個人的に再認識させられたのは、第40回で寅子の夫・優三(仲野太賀)が出征するシーンだ。

 寅子は家族とともに優三を見送ったのち、一人で後を追いかけ、振り向いた彼に変顔を披露するのだが、その変顔にどれだけ多くの人が泣かされたか。そこには寅子の伝えきれない思いが詰まっていて、胸が締め付けられた。

 2月に配信されたFODオリジナルドラマ『ペンション・恋は桃色』シーズン2でも、似たような別れのシーンがある。東京郊外で古いペンションを営んでいるシロウ(リリー・フランキ)と娘のハル(伊藤)。だが、ある日ハルがシロウのはとこと一緒に東京へ行くことになるのだが、最後の最後まで彼女は笑っている。その笑顔がなんとも切ないのだ。

 悲しいから泣く、嬉しいから笑うといったように、人の反応はそんな単純なものではない。伊藤は表情が豊かで、同じ笑顔や泣き顔でも何通りもの感情を物語る。朝ドラのヒロインという大役を経て、次回作ではどんな役を演じるのか今から楽しみだ。

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