日本映画史に残る傑作
『砂の器』(1977)
監督:野村芳太郎
脚本:橋本忍、山田洋次
キャスト:丹波哲郎、森田健作、加藤剛、春田和秀、加藤嘉、島田陽子、山口果林、佐分利信、緒形拳
【作品内容】
東京蒲田の国鉄操車場で、殺人事件が起こる。警部補の今西栄太郎(丹波哲郎)と刑事課巡査の吉村 弘(森田健)の2人が、捜査を開始するも、被害者の身元がわからず難航。
そんな折、被害者が殺害される直前に立ち寄った蒲田のバーで、被害者がある男と2人で話し込んでいる姿が発見された。「カメダ」という謎の単語を残して…。
【注目ポイント】
松本清張の小説『砂の器』を、野村芳太郎監督が映画化した本作は、日本映画史に残る傑作として高く評価されている。
「カメダ」という謎の言葉を手がかりに、事件の全貌が徐々に明かされていく本作。
物語の重要な鍵となるのが、天才音楽家・和賀英良(加藤剛)が演奏する組曲「宿命」。その旋律は、和賀の過去に隠された深い哀しみ象徴する楽曲となっている。実のところ和賀英良という名前は偽名であり、「本浦秀夫」という本名を持っていた。
事件が解明されることにより、幼い頃の秀夫が父の千代吉(加藤嘉)と共に大変した過酷な日々が明らかになる。千代吉はハンセン病を患ったことで妻に去られ、村八分に遭い、流浪の旅を余儀なくされるのだ。
行く当てもなく、お遍路姿で放浪を続ける父子は、行く先々で差別に晒される。そんな中でも、千代吉は秀夫に深い愛情を注ぎ続けるが、ハンセン病の感染の危険、秀夫の将来を不安視した“世間の目”により、両者は引き裂かれてしまう。
その後、秀夫は戸籍を変え、過去を断ち切り、新しい人生を歩むために音楽家としての道を選ぶ。しかし、そんな秀夫の目の前に過去を知る男(三木謙一)が現れる。秀夫は、自身の正体が暴かれることを危惧した挙げ句、三木を殺害したのだった。
先述した通り、秀夫が奏でる「宿命」は、切り捨てることのできない過去、そして父親への愛情が哀しく映し出されている。
物語終盤、警部補の今西栄太郎が言う「今、彼は父親に会っている。彼にはもう、音楽…。音楽の中でしか父親に会えないんだ」という言葉は、観る者の胸を打つ。
本作は、優れたミステリーであると同時に、差別や偏見への強い憤りと、父と子の絆を力強く描いている。未見の方はぜひハンカチを用意して観ていただきたい。