改変が天才的…最も成功した「エンタメ小説の映画化」5選。原作のエッセンスを映像に昇華させた珠玉の作品をセレクト
人気小説を原作とした映画は数あれど、原作の魅力を損なわず1本の映画として新たに再構成するのは案外と難しい。そこで今回は、人気エンタメ小説の実写化に成功した映画を5本セレクト。なかでも短編小説や群像劇を主体とした名作にフォーカスしてご紹介する。(文・ばやし)
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【著者プロフィール:ばやし】
ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
観客の心に温かな余韻をもたらす
『阪急電車 片道15分の奇跡』(2011)
監督:三宅喜重
脚本:岡田惠和
キャスト:中谷美紀、戸田恵梨香、宮本信子、南果歩、谷村美月、有村架純、芦田愛菜、小柳友、勝地涼、玉山鉄二
【作品内容】
兵庫県の宝塚市と西宮市を結ぶ阪急今津線を舞台に、婚約していた男性を後輩に奪われたOLの翔子(中谷美紀)、恋人のDVに複雑な感情をもつ女子大生のミサ(戸田恵梨香)、息子夫婦との関係に思い悩む時江(宮本信子)など、偶然その場に居合わせた乗客たちの人生が交錯する…。
【注目ポイント】
作家・有川浩が生み出した作品は今まで数多く映像化されては世に放たれ、ドラマティックなのにどこか身近に感じてしまう恋模様は世代を問わず共感を集めてきた。
そんな有川浩作品の実写化のなかでも、一段と観ている人の記憶に刻まれたのが映画『阪急電車 片道15分の奇跡』だ。
連作短編小説「阪急電車」に収録されている5篇の物語が原案となっている映画は、実際に物語の舞台となった阪急今津線を走行する電車と各駅で撮影が行われ、地元民には馴染み深い小豆色の電車で起こる小さな奇跡が端正に描かれている。
名前も素性も知らない。ただ同じ電車に乗り合わせただけ。それだけの関係のはずなのに、小さい車両の中でいくつもの想いが駆け巡り、それぞれの心にメッセージが受け渡されていく。
決して互いに深く干渉するわけではないのに、心の隙間が埋まっていくようにバトンが手渡されていく様子は、原作でも映画でも、作品に触れた人の心に温かな余韻をもたらしていた。