黒人差別に言及した衝撃作
『アラバマ物語』(1962)
監督:ロバート・マリガン
脚本:ホートン・フート
原作:ハーパー・リー
出演:グレゴリー・ペック、メアリー・バダム、フィリップ・アルフォード
【作品内容】
1932年、人種差別が色濃く残るアラバマ州の田舎町。
妻に先立たれ、2人の子供を育てながら暮らす弁護士・フィンチ(グレゴリー・ペック)は、ある日、白人女性に性的暴行を加えた容疑で逮捕された黒人青年を弁護することになる。
正義を重んじるフィンチは、差別や偏見に立ち向かいながら、青年の無実を証明するために奔走するが…。
【注目ポイント】
本作は、全米で900万部を売り上げたハーパー・リーの自伝的小説を映画化した作品である。
弁護士フィンチの奮闘を、彼の2人の子供ジェム(フィリップ・アルフォード)と、スカウト(メアリー・バダム)の視点も交え見つめる本作。
フィンチは、弱い者の立場を尊重する人権弁護士である。そんな彼が判事に頼まれたのが、白人女性に性的暴行を加えたとして不当逮捕された黒人青年・トムの弁護だ。
彼はトムの弁護を続けるうちに、事件について証言する保安官、白人女性の父、暴行を受けた当人の3人の証言に明らかな矛盾点を見つけ、裁判で語る。
「全ての黒人が嘘つきで、道徳心を持っていない。その前提が無条件で受け入れられる事実がある。そんなことで、まともな黒人青年が冤罪になるのは許されない!」
そして、黒人青年トムも「白人女性に誘惑されたが、拒否した」との事実を明らかにする。しかし、トムの証言も空しく、有罪判決が下されてしまうのだ。
濡れ衣を着せられた事実に絶望したトムは、拘置所の移送中に逃げ出し、射殺されてしまう…。なんともやりきれない幕切れだ。
この物語の背景には、1876年から1964年までの約100年の間に存在したジム・クロウ法がある。
本作の舞台であるアラバマ州では、バスに乗車する際に白人と席を分けられる、白人と有色人種が共に飲食できるレストランは違法になるなどの法律を作り、黒人を差別していた。
黒人への差別や偏見が生み出した法律が冤罪事件を誘発して、黒人青年を殺したのである。
ラストは希望の要素もあるが、アメリカでは未だに根深い黒人差別について深く考えさせられる作品だ。