ヒッチコックのシリアスな悲劇
『間違えられた男』(1956)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
脚本:マクスウェル・アンダーソン、アンガス・マクファイル
原作:マクスウェル・アンダーソン『The True Story of Christopher Emmanuel Balestrero』、ハーバート・ブリーン『A Case of Identity』
出演:ヘンリー・フォンダ、ヴェラ・マイルズ
【作品内容】
バンドのベーシストとして生計を立てるマニー(ヘンリー・フォンダ)。
妻のローズ(ヴェラ・マイルズ)の歯の治療代を工面するために、保険会社を訪問すると、窓口係に不審な顔をされる。以前、保険会社の強盗に入った男と瓜二つだったのだ。
警察に逮捕され釈放までこぎつけたマニー。彼は、妻のローズと共に証人を探すが、すでに証人2人は死んでしまっていて…。
【注目ポイント】
本作は、1953年にニューヨークで起きた実話をもとに作られたサスペンス映画である。顔が似ているというだけで、犯人に仕立て上げられてしまう男の悲劇。ヒッチコック特有のユーモアを交えた一連のサスペンス映画とは異なり、冤罪に巻き込まれた男の一部始終をシリアスに描いているのが特徴だ。
主人公のマニーは、連続する強盗事件の犯人と顔が似ているという理由だけで逮捕される。逮捕を決定づけるのは、客観性を欠いた2人の刑事の独断的な判断である。
例えば、バレストレロが刑事に書くように求められたメモの書き間違い。マニーのメモが、犯人の残したものと同じだというのだ。
指紋を取られ、留置所に閉じ込められるマニー。彼の上半身がぐるぐると回転するショットは、彼の絶望的な気持ちを現わしているようで真に迫る。
最終的には、真犯人が現われて彼の疑いは晴れるのだが、妻は精神を一時的に病んでしまう…。それにもかかわらず、彼を犯人と思い込んで窮地に追いやった者や、誤認逮捕した警察による謝罪の言葉はない。
冤罪のために元の生活が壊される恐ろしさや、記憶違いによって冤罪に加担する者の無自覚な悪に、身につまされる作品である。
(文・シモ)
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【了】