自他に牙むく「ふがいない」人たちの叙事詩
『ふがいない僕は空を見た』(2012)
R18指定
監督:タナダユキ
原作:窪美澄
脚本:向井康介
出演:永山絢斗、田畑智子、原田美枝子、窪田正孝
【作品内容】
高校生の卓巳(永山絢斗)は、友人に誘われて行ったアニメの同人誌販売イベントで、「あんず」を名乗るアニメ好きの主婦・里美(田畑智子)と邂逅。以来、情事を重ねる日々を過ごしていた。
その後、2人は、卓巳が同級生の七菜(田中美晴)から告白されたことをきっかけに一旦別れるが、その後ショッピングセンターでばったり再会。再び体を重ね、里美が心から好きだと実感する卓巳だったが、彼女から別れを告げられてしまう。
【注目ポイント】
連続テレビ小説『私の青空』(2000)で話題を呼んだ田畑智子と、俳優・永山瑛太の弟として知られる永山絢斗。2人が「年の差不倫カップル」を演じて話題になったのが、この『ふがいない僕は空を見た』だ。
原作は、2011年本屋大賞2位、第24回山本周五郎賞を受賞した窪美澄の同名小説。監督を『百万円と苦虫女』(2008)や『赤い文化住宅の初子』(2007)のタナダユキが務める。
本作には、タイトル通り、「ふがいなさ」をまとった登場人物が多数登場する。代表格は、田畑演じる里美だろう。学生時代、いじめられっ子だった里美は、同じ境遇だった夫と結婚。しかし、執拗に子作りを求める姑に嫌気がさし、逃げ場をアニメの世界に求めはじめる。
そして里美は、アニメのイベントで高校生の卓巳と邂逅。お互いにコスプレ姿でセックスをしたりと、身体を重ねる日々を過ごす。つまり、彼女にとって卓巳は、自らの傷を埋め合わせる存在なのだ。
心の傷をかかえ、自分と他人に牙を剥く登場人物たち。そんな中一際異彩を放つのが、原田美枝子演じる卓巳の母、寿美子だ。助産院に勤める寿美子は、卓巳の担任、野村の出産をサポート。里美との不倫現場をネット上にばら撒かれ、引きこもりになった卓巳に、次のように語りかける。
「生きててね。あんたも命のひとつなんだから、生きて、そこにいて」
確かに私たち一人一人は、ふがいない命かもしれない。しかし、この世に生を受けた限り、明日に向かって生きていかなければならない。そんな力強さに満ちた彼女のセリフが、本作をハッピーエンドに導いてくれる。