色気と恐怖が匂い立つ名演技
吉岡里帆『にんげんこわい2』(2023)
【作品内容】
落語の演目「品川心中」を基にしたWOWOW制作のオムニバスドラマ。
かつて人気だった遊女・お染(吉岡里帆)は、遊郭の行事に必要なお金を工面できず、恥をかくくらいならと死ぬことを決意する。だが1人で死ぬのは嫌だったので、自分に思いを寄せる貧乏な貸本屋・金蔵(井之脇海)に心中を持ちかける。
2人は品川沖までやってくるが、金蔵が逃げることを提案したため、お染は金蔵を海に突き落とす…。
【注目ポイント】
芸能界の第一線で活躍する吉岡里帆が演じたのは、落ち目の花魁・お染。親しみやすい雰囲気の吉岡里帆のパブリックイメージを裏切る、哀愁たっぷりな演技で観る者を魅了する。
一般的に映画やドラマに登場する花魁は、ゴテゴテとした着物で着飾っている印象が強いが、本作で吉岡演じる落ち目の花魁・お染は、そこはかとなく見窄らしさがある。
しかし、客の前に姿を現すとたちまち色気が溢れ、顔の角度や少しだけのぞいた首元に目が釘付けになる。
一方、媚態に富んではいるものの、隙があるように見えて、実は男を手の平で転がしているのが見て取れる点が面白い。その上、鼻にかけたような猫撫で声で男を誘惑しながら「私と心中してくれない?」とサラリと言う姿は、恐怖すら感じさせる。花魁を演じた吉岡は、エロスとタナトスの使い分けがとにかく見事なのだ。
じわじわと沼に引きずり込むような「にんげんのこわさ」を表現した本作は、吉岡里帆の役者としての引き出しの多さを知る上でうってつけの1本だと言えるだろう。