少女のような可憐さが魅力
奈緒『みをつくし料理帖』(2020)
監督:角川春樹
脚本:江良至、松井香奈、角川春樹
原作:髙田郁
出演:松本穂香、奈緒、若村麻由美、浅野温子、窪塚洋介、小関裕太、藤井隆、永島敏行、松山ケンイチ、反町隆史、榎木孝明、鹿賀丈史、薬師丸ひろ子、石坂浩二、中村獅童
【作品内容】
享和2年、大阪。幼馴染みの澪(松本穂香)と野江(奈緒)は、大洪水に遭い、離れ離れになる。その10年後、澪は江戸で料理人になり、野江は遊郭であさひ太夫と名乗る花魁となっていた。
そんなある日、吉原の看板料理を作ることになった澪は、野江と再開する…。
【注目ポイント】
ドラマ『あなたの番です』(2019)などで本格的にブレイクして以降、演技の上手い清純派女優といったイメージを覆す、大胆な役柄にも挑戦し続けている奈緒。
そんな彼女のフィルモグラフィの中でも、とりわけ異彩を放つのは花魁役に扮した本作だ。どんなに派手なメイクや衣装で着飾っても、持ち前のあどけない表情がなんとも言えないいじらしさを醸し出している。
花魁と聞けば、むせ返るような色気、容易に近づけない圧倒的なオーラ…といった印象が強い。その点、花魁ほど、屈託のない笑顔とストレートな心情表現を持ち味とする奈緒のイメージからかけ離れた役柄もないだろう。
しかしながら、本作で奈緒は見事に役に血を通わせることに成功している。かつての幼馴染であり、料理人として活躍している松本穂香演じる澪と奈緒演じる野江の対話シーンを観てみよう。
このシーンで澪は、遊郭で働く野江の身請けとなるために働くことを決意する。奈緒が花魁を演じることで塔に囚われた姫のような儚さが強調され、観る者は「なんとかしてあげたい」という気持ちにさせられるのだ。
遊郭に売られた過去を持つ野江が花魁であることは決して本意ではない。その複雑な内面がセリフではなく、ふとした身振りや佇まいでヴィヴィッドに伝わるのは、演じ手が奈緒だからこそだろう。花魁という職業は、側から見ればきらびやかに見えるかもしれないが、遊女たちはそれぞれの事情を抱えている。
運命に翻弄され、少女の面影を瞳に残す花魁を演じた奈緒。本作を通じて、女優としてさらなるステップアップを遂げたことは言うまでもないだろう。