フィクションとノンフィクションの境界線が曖昧に…。
『東京怪奇酒』(2021)
監督:太田勇、広瀬陽一、山口将幸
脚本:山田能龍、辻健一、福田昌平、太田勇
出演:杉野遥亮
【作品内容】
ホラーが大の苦手な俳優・杉野遥亮のもとに、海外ホラー映画の主演オファーが届く。
極度のビビりを克服するため、杉野は自身のラジオ番組「杉野遥亮の今度は長ズボン」にゲスト出演した漫画家・清野とおるから勧められた「怪奇酒」を実行することに。
怖がりなほど向いているという「怪奇酒」。早速杉野は、話題のカルト芸人・チャンス大城に心霊話を聞きに行く。彼が昔住んでいたアパートがたくさんの霊で溢れていたと知った杉野は、酒を片手に現場に向かうが…。
【注目ポイント】
「東京都北区赤羽」「その「おこだわり」、俺にもくれよ!!」で知られる漫画家・清野とおるの実体験を描いた漫画を実写化。ドラマ版では作者の清野に代わり、杉野遥亮が本人役となって「怪奇酒」を堪能していく。
「怪奇酒」とは何か。それは、知人から聞いた心霊話のスポットへ出向き、その場にマッチした酒とつまみを手に感情を揺さぶらせながら飲酒する行為である。説明を聞いてもなお、「どういうこと?」と思わず聞き返してしまいそうになるほど奇天烈な行動だが、とてつもない恐怖心や高揚感のなかで味わう酒は刺激的で、病みつきになるという。
怪奇現場で酒を飲む…かなり不謹慎な内容にも思えるが、決して冒涜しているのではなく、ドラマとしてどう“ホラー・コメディ”へと昇華できるのかが熟考された作りとなっている。
カルト芸人・チャンス大城や「事故物件住みます芸人」の松原タニシ、Creepy NutsのR-指定など、多彩なゲストが毎話披露してくれるのは、至極の心霊話。実際にホラーが苦手という杉野から飛び出すリアクションは、素なのでは? と錯覚してしまうほどにリアルだ。徐々に「怪奇酒」の魅力と快感に取り憑かれていく狂気じみた杉野の演技は、本作の見どころと言えるだろう。
実体験をもとにしているからか、このドラマを見ていると、フィクションとノンフィクションの境界線がわからなくなるから不気味だ。この稀有な感覚を、ぜひ体感してみてほしい。