子を想う父の愛情に胸が締め付けられる
『銀河鉄道の父』(2023)
監督:成島出
脚本:坂口理子
出演:役所広司、菅田将暉、森七菜、豊田裕大、坂井真紀、田中泯
【作品内容】
宮沢政次郎(役所広司)は、岩手県で代々続く質屋を営んで生計を立てている。
彼は、長男・賢治(菅田将暉)に家業を継がせようとするも、なんだかんだ理由をつけられて拒まれていた。
やがて、賢治は、妹トシ(森七菜)の病気をきっかけに詩や小説に目ざめるが…。
【注目ポイント】
本作は、「第158回直木賞」を受賞した門井慶喜の同名小説を映画化した作品である。
「賢治が死んだら私も死ぬ」
赤ちゃんの頃から息子の賢治を、過保護に育てる政次郎。賢治が赤痢になった時に病院で看病をして、自分も赤痢にかかってしまうほどの溺愛ぶりである。
封建的な祖父・喜助(田中泯)とは反対に、賢治が学校で学ぶことにも寛容だ。進学の希望には、はじめ首を縦に振らなかったものの、娘・トシの口添えで渋々ながら叶えてやる甘い父である。
「自分はこれまでの父親とは違う、新しいタイプの父親だ」と、トシの受け売りの言葉で賢治に語る様子は、おかしみすら誘う。そんな単純な父だが、それらの行動の全ては賢治への深い愛情があってこそだ。
トシの結核をきっかけに、文学に目ざめる賢治。賢治はトシのために創作した、『風の又三郎』や『月夜のでんしんばしら』を聞かせてやる。その創作の数々を胸に、亡くなるトシ。賢治の創作は、トシがかねてから希望していたことだったのである。しかし、そんな賢治も結核に、冒されてしまう。
死にそうな賢治に政次郎が、『雨ニモマケズ』の一説を朗読して、よい詩だと泣きながら叫ぶシーンは胸に迫る。
「何度も、お前のことを褒めたじゃないか、はじめて立った時、歩いた時、寝小便しなくなった時、物語を書いた時、本を出した時、梨をひときれ食べられた時、いっぱい褒めたでないか!」
子に先立たれる無念を叫ぶ政次郎の姿は、子を持つ父親にはたまらなく苦しいものに映るだろう。
昭和8年9月、宮沢賢治 死去…。
賢治が遺した数々の名作は銀河鉄道に乗って、亡きトシと共に夜空を永遠に旅し続けるのである。政次郎の愛情とともに色あせることなく、いつまでも…。