子を想う父の愛情に胸が締め付けられる

『とんび』(2022)

俳優の阿部寛
俳優の阿部寛【Getty Images】

監督:瀬々敬久
脚本:港岳彦
原作:重松清
出演:阿部寛、北村匠海、薬師丸ひろ子、杏、安田顕、大島優子、麻生久美子、宇梶剛士、濱田岳、尾見としのり、田中哲司、井之脇海、田辺桃子、麿赤兒、豊原功補、嶋田久作、村上淳、吉岡睦雄、木竜麻生、宇野祥平

【作品内容】

 高度経済成長期まっただ中の昭和37年、瀬戸内海に面する広島県備後市。運送業の社員として働く安男(阿部寛)は、妊娠中の愛妻の美佐子(麻生久美子)と2人暮らしだ。

 ほどなくして息子の旭(北村匠海)が誕生。3人の幸せは長く続くと思われたが、妻の美佐子が不慮の事故で亡くなってしまう。

 安男と旭のたった2人の父子の生活がはじまる…。

【注目ポイント】

 本作は、直木賞作家・重松清のベストセラー小説を映画化した感動のドラマである。

 妻を不慮の事故で亡くしたことで、男手一つで子育てをすることになった昭和の頑固者・安男。彼が不器用ながらもまっすぐに、旭を育てていく姿が描かれている。

 筆者が個人的に印象に残った場面は、高校生になった旭が東京の大学に行くと言い始めた時に安男が飲んだくれてしまうシーン、息子が出立する当日、涙を見せまいとトイレに引きこもってしまうシーンである。

 安男は、本当は旭の幸せを喜んでやりたい。しかし、手塩をかけて育ててきた旭が手元から離れてしまうことに寂しさを感じ、素直に喜べないのだ。物語は終盤にかけて、さらにエモーションの高まりをみせる。

 瀬戸内の海で旭と妻の由美(杏)、孫の健介が遊ぶ姿が映し出される。安男はその姿を遠巻きに眺めながら、感慨深げな表情を浮かべて涙を流す。

 安男を演じる阿部寛の表情は、旭を育て上げた自分の人生を回想し、寂しさと充実感が入り混じったキャラクターの複雑な内面を見事に表現している。

 不器用な父の愛は、光に照らされた海と共にまぶしく輝いている。同作は過去に2度ドラマ化されているが、本作と2つのドラマ版を見比べてみるのも楽しみの1つだろう。

(文・シモ)

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【了】

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