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闇が深すぎる…実際に起きた殺人事件をモデルにした日本映画5選。真実を知るとより恐ろしい…骨太の問題作をセレクト

text by 阿部早苗

愛、金、運命に狂わされた人間が人間を殺す…。作り話よりも残酷な出来事が、世の中では起こっている。決して他人事では済まされない凶悪犯罪。我々は悲劇を教訓にして生きていかなければならない。そこで今回は、実在の殺人犯を元にした邦画を5本セレクトしてご紹介する。(文・阿部早苗)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】

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【著者プロフィール:阿部早苗】

神奈川県横浜市出身、仙台在住。自身の幼少期を綴ったエッセイをきっかけにライターデビュー。東日本大震災時の企業活動記事、プレママ向けフリーペーパー、福祉関連記事、GYAOトレンドニュース、洋画専門サイト、地元グルメライターの経験を経て現在はWEB媒体のニュースライターを担当。好きな映画ジャンルは、洋画邦画問わず、社会派、サスペンス、実話映画が中心。

リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件の真実

『I am ICHIHASHI 逮捕されるまで』(2013)

ディーン・フジオカ
ディーン・フジオカ【Getty Images】

監督:ディーン・フジオカ
脚本:湯浅弘章、Team D
原作:市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』
出演:ディーン・フジオカ

【作品内容】

 千葉県のマンションでイギリス人女性が変死体で発見された。このマンションの住人である市橋達也(ディーン・フジオカ)は、警察の捜査を逃れて行方をくらます。

 その後、市橋は顔を整形し、名前を変えながら全国を転々として逃亡を続けるが…。

【注目ポイント】

 2007年に日本中を震撼させた「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」の犯人・市橋達也の2年7か月にわたる逃亡生活を記録した書記「逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録」を基にした実録ドラマ。

 青森、四国、沖縄、名古屋、大阪、福岡など日本各地を転々としながら、名前や外見を変え続けた市橋の逃亡劇を描いた作品だ。当時、彼の行方を巡っては死亡説や女装潜伏説などさまざまな憶測が飛び交い、世間を騒然とさせた。また、逮捕後に書かれた手記に関しては、当時の市橋が公判前に書いたということで話題となった。

 映画では、逃亡中の市橋がどのように整形を行ったのか、生活費を稼ぐために行っていた肉体労働など逮捕に至るまでの経緯が描かれている。特に、整形を重ねる中で、自身の特徴的な唇を隠すために個室トイレで自らハサミを使って唇を切る衝撃的なシーンは、彼の必死さと狂気を象徴していると言えるだろう。

 さらに市橋が事件について語るインタビュー形式のシーンが挿入されており、罪の意識が垣間見えるものとなっているのだが、事件の背景や自身の過去などについては明らかにならない。物語全体を通しても逃亡中の心理状態や孤独感などといった内面に焦点を当てているため、「とにかく捕まりたくない」という市橋の身勝手な執念が伝わってくる。

 逃亡劇とは別になるが市橋は大学時代、マンガ喫茶で落ちていた財布を盗もうとして店員に注意され、衝動的に店員を階段から突き落としたという。この件で逮捕されたが、親の助けによって前科は付かなかったそうだ。そのため、親には頼れない、逃げ切らなくてはならないという思いもあったのかもしれないが、身勝手極まりない。

 本作は俳優のディーン・フジオカが監督と市橋役にも挑み、逃亡の裏に潜む孤独や葛藤、人間の弱さと強さを鮮烈に描き出している。当時、日本ではブレイク前だったディーンの迫真の演技が強く印象に残る作品だ。

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