大牟田4人殺害事件をモチーフにした問題作
『全員死刑』(2017)
監督:小林勇貴
脚本:小林勇貴、継田淳
原作:鈴木智彦『我が一家全員死刑』
出演:間宮祥太朗、六平直政、入絵加奈子、毎熊克哉、清水葉月、鳥居みゆき、落合モトキ、藤原季節
【作品内容】
人の代わりに服役をしていたヤクザ一家の次男・タカノリ(間宮祥太朗)は出所後、組の借金苦を兄のサトシ(毎熊克哉)から聞かされ、金回りの良い資産家・吉田家への襲撃を持ちかけられる。そして襲撃を決行するが…。
【注目ポイント】
家族4人全員に死刑判決が下った強盗殺人・死体遺棄事件を題材にした本作。事件の死刑囚でもある次男が獄中で綴った手記『我が一家全員死刑』をベースに、小林勇貴監督が主演に間宮祥太朗を迎えメガホンを取った作品だ。2004年9月に起きた大牟田4人殺害事件は、多くの人の記憶に残る凶悪事件といえるだろう。のちに家族全員が死刑判決となっている。
実在の事件について説明しよう。ヤクザ一家が共謀して知人女性を絞殺後、偶然帰宅した女性の長男とその友人を拳銃で射殺。その後、3人の遺体を車ごと川に沈ませるのだが、実は、事件の2日前にも女性の次男を殺害し、遺体を川に遺棄していた。
事件の背景にはヤクザの組長をしている父親が、金集めに苦しんでいるという事情があった。一方、被害者の女性は違法な金貸し業で金銭を蓄えており、ヤクザの威勢を利用して生活をしていたという。加害者一家からすれば、自分たちが困窮している中で、ヤクザの名前を利用して裕福に暮らす姿は許しがたいものであり「奪ってやる」という動機に至ったのかもしれない。
しかしながら殺害後は返り血を浴びたまま買い物をするという無謀な行動もあったようで、金を奪うために人を殺したにもかかわらず、被害者から金の隠し場所を聞き出すことさえしていなかったという。緻密な計画による犯行も恐ろしいが、このような衝動的な殺人も、ただただ戦慄を覚える。
そんな実在事件をベースにした本作は、ブラックユーモアをたっぷり加えながらも実在事件をほぼ忠実に再現していると言えるだろう。一家は金を奪うという目的だけが強く犯行についても感情的に及ぶため無計画さが目立つ。何故だかタカノリだけが殺害する役割を担うのだが、兄とのやり取りには不謹慎ながらもクスっとなる。
映画は、実在事件がベースとあってシリアスな映画と思いきやコメディ寄りに仕上がっている。そんな中でも、主人公タカノリを演じた間宮祥太朗の鬼気迫る演技はとにかく秀逸であり、エネルギッシュさを感じる演出の数々は類稀な作品といえるのではないだろうか。