10歳未満で売られてくる少女も
吉原の遊女には格付けがあり、上から順に呼出(よびだし)、昼三(ちゅうさん)、付廻し(つけまわし)、座敷持、部屋持といった。
このうち呼出、昼三が花魁と呼ばれる高級遊女で、基本的に道中ができるのは花魁だけだった。「座敷持は寝起きする個室のほかに客を迎えるための座敷を与えられた遊女」で、「部屋持は座敷を与えられない遊女」だった。
第1話で重三郎に啖呵を切ったり、第2話で平賀源内が一夜を共にしたりした遊女・花の井は、花魁と呼ばれているので呼出か昼三であろう。
また、重三郎と花の井の昔馴染みとして登場し、悲しい死を迎えた遊女・朝顔は、切見世(河岸見世)の遊女である。
「切見世は、吉原のなかで最下級の遊女屋」で、「お歯黒どぶ沿いの裏通りにあった」
朝顔は元花魁という設定だが、花魁は28歳が定年であり「二十八歳を過ぎて身を寄せるところがない遊女が、切見世の遊女になることも多かった」という。
吉原には、10歳未満で売られてくる少女もおり、彼女たちは遊女見習いの「禿(かむろ)」と呼ばれた。「禿は、台所など遊女屋内の雑用をこなしながら、のちに遊女になる身であるため、礼儀作法を教え込まれた。
その後、呼出や昼三などの高級遊女をお付きとなって、遊女の食事の給仕や煙草の吸いつけなどをしながら、遊女としての教育を受けた」
花の井にも2人の少女が付いているが、この少女たちが禿である。禿の面倒はお付きの遊女が見ることになっていて、衣装代や食事代などはお付きの遊女が支払った。
第1話で、貸した本を少女に汚された重三郎が、その代金を花の井に請求しているのは、そういう理由からである。