「鏡に映る人」


岩田剛典公式Instagramより

「振り返る人」が第1主題だとするなら、第2主題はひとまず「鏡に写る人」ということになるだろうか。明石家さんま役を演じた「笑いに魂を売った男たち」(『誰も知らない明石家さんま』(日本テレビ系)2023年11月26日放送回内で放送)で楽屋の鏡に写る場面が顕著な一例だが、狂おしいほどに切ない顔をする岩田の特徴的な表情が鏡に写るという主題によってあざやかに刹那的な奥行きを生んでいる。橋本環奈主演の『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(Netflix、2023)で演じた王子役では、鏡の中だけに見せる刹那顔を強烈に映じていた。

 彼の表情は表出するというより、放出されるといった方が正確かもしれない。同じ福田雄一監督作『新解釈・三國志』(2020)では、劉備(大泉洋)が統治する蜀に仕えた趙雲役で、初登場早々にナルシストキャラが快調。フワッと花ひらくように可憐な横顔の表情を画面全体に放出する。正面を向いて歩みでる瞬間は歓喜の発粉と形容してもいい。

 福田作品の岩田は、湖面に映る自分の姿に惚れ惚れしたギリシャ神話の美青年ナルキッソスそのものであるかのようだ。さらに同監督特有のギャグ演出に応えて、三代目J SOUL BROTHER(以下、三代目JSB)のパフォーマーとして切磋琢磨してきたダンスを惜しげもなく披露することも辞さない。

 出演最新作『聖☆おにいさん THE MOVIE〜ホーリーメン VS 悪魔軍団〜』でも、天使長ミカエル役によって増幅される笑顔とダンス、ラップでエキセントリックな役柄を表現。

 主人公・イエス(松山ケンイチ)とブッダ(染谷将太)が暮らすアパートにドラマ出演のオファーをするためにミカエルがやってくる場面では引きの画面下手、次のカットに切り替わる前にカールした髪の毛をいじることで、福田監督作の岩田剛典はきっと踊るなという、ダンスの合図みたいになっている。すると今度は弁財天(白石麻衣)を連れて演技指導にきたミカエルが「ズンズンチャ」とリズムをとって踊り、叫び、ラップする。「アガペー」と連呼するこのダンス演出によって、三代目JSBのパフォーマーとは別次元で縦横無尽な第3主題「ダンスする人」としての映画俳優・岩田剛典がスクリーン上に浮かぶ。

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