岩田剛典は現代のジェームズ・スチュワート?
岩田剛典公式Instagramより
アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作『サイコ』(1960)で、私立探偵が階段から落下する場面の画面(こちらはワイヤーアクションではなくスクリーンプロセスで撮影されている)とそっくりだったからである。足元まで写すか写さらないかの違いはあるにせよ、のけぞる身体がなかなか落下していかない画面のあからさまな類似については、『Yogibo BOOM TOKYO』(6月2日開催)にソロ出演した岩田本人との楽屋インタビューで指摘してみた。
『バスカヴィル家の犬』取材時同様に「なるほど」くらいの同意を得たと記憶しているが、ぼくはこの“ヒッチコック落ち”がハイライトになった事実がどうしても見過ごせなかった。それで探偵の落下画面だけでなく、ヒッチコック監督作の主演俳優であるジェームズ・スチュワートを引き合いにだしてみたくなった。
『裏窓』(1954)や『めまい』(1958)など、ヒッチコック作品のジェームズ・スチュワートは常に落下と隣り合わせでありながら、決定的には(なかなか)落下しない存在として描かれる。
そうした類似性からさらに『虎に翼』第7週第31回を見てみる。ハイキングでの落下以降、心を寄せ合うようになった寅子と花岡は相思相愛になりかける。裁判官の試験に合格した花岡が、嬉々とした表情でまっさきに寅子に報告する場面がある。電話室の中で受話器を左耳にあてた花岡が目を見開く歓喜の表情は、『めまい』のスチュワートが相手役のキム・ノヴァクが着替えてくる瞬間を今か今かと待っている場面での随喜の顔を思わせる。
『バスカヴィル家の犬』や奈緒主演の不倫ドラマ『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系、2023)でもなんでもいい。次の場面に移行するカットで、画面下手側に位置する岩田が上手からフレームの外へ向ける慎ましく明快な視線移動は実に映画的だ。演出家が意図する必要な場所へ必要な視線をただ向けるだけという、映画に奉仕するような振る舞い(演技)は、ヒッチコック監督作だけでなくフランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』(1946)で何度も受話器をもつジェームズ・スチュワートが貫いた特有のスタイルでもある。
スチュワートはいわば、こうした視線移動の世界代表みたいな人。かたや『虎に翼』で受話器をあてる岩田が時代設定とは関係ないところで、どうも古風なたたずまいをたたえている。古典的ハリウッド映画俳優と共通する岩田剛典の演技スタイルがあると思うのだが、どうだろう?