ピンポン玉がつなぎとめる親子の絆
『さがす』(2021)
監督:片山慎三
脚本:片山慎三、小寺和久、高田亮
出演:佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也、森田望智、松岡依都美、成嶋瞳子、品川徹
【作品内容】
「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」―。大阪の下町に暮らす中学生、原田楓(伊東蒼)は、父の智(佐藤二朗)からそう吹聴される。いつもの冗談だと思い、まったく相手にしない楓。
しかし、翌朝、智は自宅から忽然と姿を消していた。ひとり残された楓は父を探しに警察へ向かうが、警察は一向に相手にしない。そんな中、楓は日雇い現場に父の名前があることを知り…。
【注目ポイント】
『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系、2011~2016)の仏や『今日から俺は!!』(日本テレビ系、2018)の赤坂哲夫など、コメディリリーフの印象が強い俳優、佐藤二朗。そんな佐藤の普段とは違うシリアスな熱演が観られる作品が、この『さがす』だ。
本作は、『岬の兄妹』(2019)で国内外から大きな注目を集めた片山慎三の商業デビュー作。キャストには、佐藤のほかには、森田望智や伊東蒼、清水尋也らが名を連ねる。
「佐藤二朗さんにシリアスな演技を見せてほしかった」という片山のたっての願いから実現した本作は、タイトル通り、「さがす」という行為に焦点を当てた作品だ。楓が智をさがすように、森田演じるムクドリは死に場所を、清水演じる山内は死にたい女性をさがしている。そして、彼らの欲望は、本作のクライマックスで最も不幸な形で激突する。
さて、そんな本作の白眉は、ラストシーンだろう。事が終わり無事再会した楓と智。そんな2人が、黙々とピンポンを行うのだ。約5分に渡って間断なく弾むピンポン玉の音は、それまでの不快感を吹き飛ばすほど鼓膜に心地良く響き、過酷な状況の中で懸命につなぎとめようとする親子の絆を象徴しているように思える。
さまざまな余白を包含した本作。ぜひともじっくり噛みしめてもらいたいものだ。