時代劇ファンの胸を熱くする決死の大立ち回り

『十一人の賊軍』(2024)

仲野太賀【Getty Images】
仲野太賀【Getty Images】

監督:白石和彌
原案:笠原和夫
脚本:池上純哉
出演者:山田孝之、仲野太賀、尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ、岡山天音、松浦祐也、一ノ瀬颯、小柳亮太、本山力、野村周平、音尾琢真、ゆりやんレトリィバァ、田中俊介、松尾諭、柴崎楓雅、佐藤五郎、吉沢悠、駿河太郎、松角洋平、浅香航大、佐野和真、安藤ヒロキオ、佐野岳、ナダル、木竜麻生、長井恵里、西田尚美、玉木宏、阿部サダヲ

【作品内容】

 戊辰戦争が勃発し、旧幕府軍は新政府派の官軍によって東国へと追い詰められていた。新発田藩の目前には官軍の到着が迫り、旧幕府派の羽越列藩同盟軍が出兵を求めてやってきた。このままでは両軍が鉢合わせ、新発田が火の海になってしまう。
 
 新発田藩家老の・溝口内匠は官軍の進撃を食い止めるべく、死罪になる十一人の罪人を使い、官軍が砦へ侵攻することを阻止するように命ずる。勝てば無罪放免という約束を信じ、罪人たちは賊軍となって無謀な死闘に挑む。

【注目ポイント】

 3人のプロデューサーが「これを東映がやらずしてどこがやるんだ!」と声を揃えて実現した集団抗争時代劇。東映の代表作ともいえる『仁義なき戦い』の脚本家・笠原和夫が残した16ページのプロットを原案とし、白石和彌監督が現代向けにチューニングをしながら、60年越しにほとんどオリジナルとして作り上げた。

 殺陣はリアリティ路線。白石監督は『雄呂血』(1925)、『切腹』(1962)、『上意討ち 拝領妻始末』(1967)などを参考に地に足のついた生身の動きを感じるようなチャンバラを目指したという。

 なかでも、賊軍を率いる新発田藩士・鷲尾兵士郎を演じた仲野太賀、そして賊のひとりである爺っつぁんを演じた本山力の立ち回りは、血みどろで重くリアルでありながら爽快感もあり、思わず唸る格好良さだ。

 仲野太賀は、なんと本格的な殺陣はこれが初めてだというから衝撃だ。大人数を相手に挑む決死の大立ち回りは、往年の時代劇ファンも胸が熱くなるはずだ。

 そして登場から“何者か”のオーラを漂わせていた爺っつぁんが正体を見せて名乗るとき、泥臭く血生臭い戦場のなかに侍の様式美が立ち現れる。それまで手にしていた刀から槍に持ち替えたあとは、さすが殺陣のプロ集団・東映剣会の33年の大ベテラン・本山力の気迫が漲り、ひとつのカタルシスが訪れる。回避のために回転する様などは、渋くも美しい。 

 しかしアクション部は、そんな本山だからこそと、あえて普段の殺陣ではなく、古武術を取り入れた実践的で無駄のない動きにも挑戦してもらったという。

 この爺っつぁんの大立ち回りのために何度も観賞を重ねる観客もいるほどだ。爺っつぁんが槍を突き刺したと同時に始まる激しくも悲壮感のあるBGMは、この映画の大きな見せ場のひとつであることがよくわかる。ぜひスクリーンで堪能してほしい。

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