「時代劇俳優最後の世代」山口馬木也の凄み

『侍タイムスリッパー』(2024)

©2024 未来映画社
©2024 未来映画社

監督:安田淳一
脚本:安田淳一
出演者:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、紅萬子、福田善晴

【作品内容】

 会津藩士・高坂新左衛門が、長州藩士を討つ密命を受けた。ある夜、長州藩士・山形彦九郎に立ち向かった高坂だったが、刃を交えた瞬間に雷が落ちて目を覚ますと、そこは現代の京都の時代劇撮影所だった。やがて高坂は様々な人々の優しさに助けられ、時代劇の斬られ役として成長してゆく。

【注目ポイント】

 全体的に優しさと明るさに溢れた作品。娯楽時代劇の現場において、殺陣をどうやってつけていくかも描かれている。

 現代の時代劇の撮影所と、劇中劇の時代劇作品、そして高坂がいた140年前の時代。3つの世界を行き来するために、役者にとっては複雑な芝居を求められた。それゆえに、3種類の殺陣の違いも味わえる。

 安田淳一監督の要求に見事に応えた山口馬木也と冨家ノリマサ、そして若くして、著明な殺陣師である父・清家三彦の道を継ぐ清家一斗、それぞれの力量があってこそ味わえる違いだ。

 高坂を演じた山口馬木也は、幕末の侍を演じながらも、その高坂が時代劇役者として芝居をするという二重構造を演じなければならなかった。手にする刀も、真剣として握るときと、竹光と呼ばれる木製の模造刀として握るときと演じ分ける必要があった。

 細やかな武士の仕草が出てくるのは、山口が時代劇の現場を含み積み上げた26年の経験の賜物。テレビ時代劇最後の黄金期を経験してきた山口と冨家の信頼感が、この優しい映画に凄みを与えた。

 何と言っても、ふたりの最後の対決は息を呑むこと間違いなし。約3日もかけて撮影された現場は、思わず劇場で声が出てしまう観客が続出である。

 また、田村ツトムが演じる娯楽時代劇スターを彷彿とさせる刀の構えなども面白い。

 東映時代劇の伝統を直に受け継ぐミレニアル世代の殺陣師・清家一斗の手による、様々な時代劇の形が味わえる話題の一本。 峰蘭太郎も、殺陣師・関本役として出演している。

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