人生を狂わるほどの圧倒的な魅力
水上恒司『熱のあとに』(2024)
社会現象にもなったドラマ『中学聖日記』(TBS系、2018)で一躍人気俳優となった水上恒司。その後も、大河ドラマや朝ドラなどで注目を集めたかと思いきや、作家性の強い作品で影のある役に扮して存在感を示すなど、若手の中でも独特のポジションを築いている。そんな水上は、映画 『熱のあとに』でホストの役を演じている。
映画『熱のあとに』は、ひとりの女性が愛に囚われ必死にもがく姿を描いたラブサスペンス。一部、多数のホストがひしめく歌舞伎町が舞台となっており、水上は橋本愛扮する女性がかつて貢いでいたホスト・隼人役を演じている。この作品は、2019年に新宿のタワーマンションで発生した、女性によるホスト殺人未遂事件をモチーフにしており、水上演じる男が橋本愛扮する主人公に腹を刺されて地面に横たわる、衝撃的なシーンから幕を開けている。
とはいえ、本作で水上が登場するシーンは極端に少ない。物語は出所した橋本愛演じる主人公がパートナーと新しい生活を築こうとするも、かつて骨の髄まで愛した男のことが忘れられず、過去の幻影に囚われるサマをスリリングに描いている。つまり本作で水上が演じたホストは、主人公の過去を象徴するようなキャラクターであり、現実にいるのか、それとも彼女の中だけの存在なのか、虚実があやふやな形で描かれている。
一切の人間味が剥奪された空虚なキャラクターを演じた水上は、出番が少ないながらも、佇まいだけで人を惹きつけるものがある。本作は、水上演じるホストのバックボーンをあえて「深く描かない」ことで、橋本愛演じる女性の狂気的とも言える盲目的な愛を際立たせるが、バックボーンが一切説明されなくても、観る者に「この人になら人生を狂わされるのがわかる」と思わせる水上の演技は流石の一言だ。
人間味を欠いた水上演じるホストだが、終盤に一箇所だけ感情を発露させるシーンがある。その内実はぜひ各自の目でご確認いただきたい。