実話に基づいた真実の純愛物語

『抱きしめたい -真実の物語-』(2014)

北川景子
北川景子【Getty Images】

監督:塩田明彦
脚本:斉藤ひろし、塩田明彦
出演:北川景子、錦戸亮

【作品内容】

 高校時代の事故で左半身麻痺と記憶障害を抱えるつかさ(北川景子)。彼女に恋したタクシー運転手・雅己(錦戸亮)は恋人と別れ、真剣に向き合う。やがて周囲からの反対を乗り越え結婚を決意。新たな命も授かるが、幸せの最中に過酷な試練が訪れる。

【注目ポイント】

 本作は、HBC北海道放送が制作したドキュメンタリー「記憶障害の花嫁 最期のほほえみ」をもとに、2014年に映画化された作品だ。W主演を務めるのは、北川景子と錦戸亮である。

 高校時代の交通事故により半身麻痺と記憶障害を抱えながらも、明るくひたむきに生きるつかさ(北川景子)。そんな彼女に惹かれたのが、誠実で優しいタクシードライバーの雅己(錦戸亮)だ。二人は偶然出会い、惹かれ合い、結婚を決意するが周囲は反対。しかし、つかさが妊娠したことで、親も認めざるをえなくなり無事に結婚を果たす。

 無事に出産の日をむかえ、互いの両親が集まり赤ちゃんを抱くつかさを囲むシーンは多幸感にあふれている。しかし、つかさが出産を終え、眠りにつくと突然画面は黒味になり、テロップで、その後つかさの容態が急変し、意識不明の状態に陥ってしまったことが告げられる。

 映画は字幕によって、つかさが、障害の有無とは関係なく妊婦の一万人にひとりが発症するまれな病気である「急性妊娠脂肪肝」に罹ったこと、そして、出産の十日後に天国に旅立ったことを静かに伝える。

 黒画面に字幕だけが映し出される時間がしばらく続き、映画に光が取り戻されると、最愛の妻を失った雅己が泣き崩れる姿が映し出される。

 本作では、事故や障害、そして死といった重いテーマが描かれている。しかし、次第に惹かれ合っていく男女の機微を生き生きと表現する名匠・塩田明彦の演出によって、重苦しさを感じさせず、むしろ全編に爽やかな風が吹いている。「誰かを想う気持ち」が丁寧に描かれているのも印象的だ。

 両親や友人など、さまざまな立場からの愛情が描かれ、観る者は自然と感情移入してしまう。難病モノというジャンルを超えて、普遍的な魅力を持つ一作だ。

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