生きることの尊さを描いたラブストーリー
『余命10年』(2022)
監督:藤井道人
脚本:岡田惠和、渡邉真子
原作:小坂流加
出演:小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、井口理、黒木華、田中哲司、リリー・フランキー、原日出子、松重豊
【作品内容】
不治の病で余命10年を宣告された20歳の茉莉(小松菜奈)は、生きることへの執着を避けるため恋をしないと決めていた。しかし、同窓会で和人(坂口健太郎)と出会い恋に落ちたことで、彼女の人生の最後の10年は大きく変わっていく。
【注目ポイント】
2017年に亡くなった作家・小坂流加さんの実話を基に描いた同名恋愛小説を原作に、映画『新聞記者』(2019)などで知られる監督の藤井道人がメガホンを取り、小松菜奈と坂口健太郎がW主演を務めた作品だ。
20歳の茉莉(小松菜奈)は、不治の病に冒され余命10年を宣告され、恋をしないと決意していた。ある日、同窓会で再会した和人(坂口健太郎)と急接近し、互いに惹かれ合う。和人との出会いが茉莉の残りの10年を変えようとしていく一方で、茉莉は複雑な気持ちを抱いていた。
茉莉が患う難病「原発性肺高血圧症」とは、心臓から肺へ血液を送り出す肺動脈の血圧が上昇する病気で、これによって心臓に大きな負担がかかる。初期の段階では、運動時に息切れや動悸が現れ、症状が進行するにつれて、最終的には心不全を引き起こし、命に関わる病気だ。
茉莉は、自分の命に限りがあることを知りながら、和人に惹かれていく自分に苦しんでいた。しかし、和人の優しさが心を溶かし、彼に会いたいという気持ちが次第に強くなる。茉莉が和人に治らない病気であることを伝え、別れを告げるシーンでは言葉の裏に、和人を傷つけたくないという思いと、彼と一緒にいたら死ぬのが怖くなるという複雑な心境が観る者の胸を打つ。
さらに、これまで家族を悲しませまいと強い姿勢を保ち弱音を吐かずにいた茉莉が、和人との別れを経て初めて母の前で涙を流し「もっと生きたいよ!」と胸の内を伝える。このシーンから続く感動は、畳み掛けるようにクライマックスへと向かっていく。
原作の作者でモデルでもある小坂さん自身、主人公と同じ病を患い、著作に闘病シーンを加筆した文庫版の刊行を待たずに2017年に逝去されている。本作は、原作内容を脚色しつつも、小坂さんの生きた証が込められていると感じる渾身の一作といえるだろう。