巨匠・相米慎二の代表作
台風の訪れと思春期の不安定な心を映し出す
『台風クラブ』(1985)
監督:相米慎二
脚本:加藤祐司
出演者:三上祐一、紅林茂、松永敏行、工藤夕貴、大西結花
【作品内容】
高見理恵(工藤夕貴)と大町美智子(大西結花)を含む数人の女子生徒たちが、夜のプールに忍び込んで、音楽に合わせて踊る。その様子を泳ぎながら見ていた男子生徒の明(松永敏行)は、突然、気絶する。
慌てた理恵たちは、三上(三上祐一)ら野球部の友達や、担任の梅宮(三浦友和)を呼び出しなんとか、事なきを得るが、それは、台風が近づく土曜日の序章に過ぎなかったのだ…。
【注目ポイント】
日本のロックバンド・BARBEEBOYSの『暗闇でDANCE』を流しながら、プールサイドで踊り狂う女子中学生たち…。鮮烈なオープニングシーンを持つ本作は、明るく振る舞う中学生たちのダークサイド、思春期ならではの、純真さと表裏一体となった残酷な部分を赤裸々に描いている。
また、容易に解釈できないシーンが目白押しの作品でもある。たとえば、主人公の三上が自室で、「個は主を超越できるだろうか?」と、哲学的な思弁にふけるシーンや、野球部の清水が、自宅のドアを開けたり閉めたりしながら、「ただいま、おかえりなさい」と、執拗にくり返しすシーン、さらには、工藤夕貴演じるヒロインの理恵が、親の不在により母親の布団でもだえているシーンなどは、思春期の言葉にできないモヤモヤを見事に表現している。
思春期の不安定な心は、台風の訪れを知らせる雨や風の音と共に、揺らめき始める。
中盤に入ると、台風で帰る期を逃した生徒たちは、校舎に閉じ込められる。そこで描かれるのは、男子生徒が意中の女子生徒を執拗に追い掛け回す姿や、躁状態になった少年少女たちがレゲエのリズムに身を任せて下着姿で踊り狂う姿だ。そんな中でも、主人公の三上だけは終始物憂げな態度を崩さない。
夜が明けると台風は通過し、風は止まり、静寂が教室を包む。踊り疲れて眠る同級生をよそに、三上は呪文のようにブツブツと「なる、ならない」と呟いている。彼の脳裏に、前の晩に担任の梅宮から電話越しに言われた「お前も15年たったら、俺みたいな大人になるんだ」という言葉がこだましているのは間違いない。
その後、椅子と机で階段を作ると、「いいかよく見てろよ、これが死だ」と叫び、教室の窓から身を投げる。
窓から飛び降りた三上の遺体は、雨でぬかるんだ地面に頭から垂直に突き刺さり、『犬神家の一族』(1976)よろしく、滑稽な姿勢をとる。