親から見放された子供たちの危うい日常

『誰も知らない』(2004)

柳楽優弥
柳楽優弥【Getty Images】

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
出演者:柳楽優弥、北浦愛、木村飛影、清水萌々子、韓英恵、YOU

【作品内容】

 父親はおらず、母親(YOU)もたまにしか家に帰ってこないというネグレクト状態に置かれた兄妹たちはそれでも必死に今を生きようとする。しかし、彼らが置かれた現実は苛烈であった。

 生活資金が底をついた長男の明(柳楽優弥)は電気、ガス、水道も止められてしまい、1日1日を何とか生き延びるような日々を送る。そんな現実から明が一瞬目を逸らした時、末妹が転倒し、目を覚まさなくなってしまう。病院に行くこともできない中、少女は息を引き取る。そんな出来事があっても明たちは生き続けなくてはいけないのだった…。

【注目ポイント】

 是枝裕和監督の2004年の作品。是枝監督は1988年に発覚した実在の事件(巣鴨子供置き去り事件)の報道に触れ、事件を基にした映画を構想し、15年に渡って企画を練り上げたのちに実現化させたのが本作だ。

 長男の明を演じたのは、演技デビューとなった柳楽優弥。この映画での演技は高く評価され、第57回カンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞に選ばれた(審査員長はクエンティン・タランティーノであった)。受賞当時柳楽優弥は14歳で、これは今でも破られていないカンヌ国際映画祭の最年少受賞記録となっている。

 YOU演じる無責任な母親に見放された4人の子供だけの生活は、暗い局面ばかりが描かれるのではなく、ドキュメンタリー出身の撮影監督・山崎裕による美しいカメラワークのもと、キラキラとした日常も切り取られている。一方で本作のカメラは、次第にゴミ屋敷化していくアパートの室内、荒んでいく子供たちの表情をも残酷なほど冷静に切り取っている。

 末妹の不慮の事故死をきっかけに、抑圧する大人のいない子どもだけの生活(ユートピア)はディストピア(絶望郷)の様相を呈する。ちなみに、実際の事件において末妹は、長男の遊び友達から暴行された末に死亡している。

 タテタカコの主題歌『宝石』も印象に残る。繊細でいまにも壊れそうな歌声は、親から見放された少年少女たちの危うい日常の機微を見事にすくいとっている。

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