酒ですべてを失った男の悲哀

『リービング・ラスベガス』(1995)

ニコラス・ケイジ
ニコラス・ケイジ【Getty Images】

監督:マイク・フィギス
キャスト:ニコラス・ケイジ、エリザベス・シュー

【作品内容】

 ハリウッドで売れっ子の脚本家ベン(ニコラス・ケイジ)は、お酒が原因で仕事をクビになり妻子も逃げてしまう。自暴自棄になったベンは、ラスベガスへ向かい死ぬまで酒を続けようとするが娼婦のサラと出会う…。

【注目ポイント】

 作家・ジョン・オブライエンの半自伝的小説を原作に、酒に溺れる男と娼婦の切ない恋模様を描く一方で、アルコール依存症の実態を鋭く突きつける本作。主演のニコラス・ケイジは1996年にアカデミー賞とゴールデングローブ賞で主演男優賞に輝いた。

 ベンはかつてハリウッドで成功を収めた脚本家だったが、アルコール依存が原因で仕事を失い、家庭も崩壊。全てを失った彼はラスベガスへと向かう。彼の目的は明確だ。それは、死ぬまで酒を飲み続けることだった。

 そんな彼は、ラスベガスで娼婦のセーラ(エリザベス・シュー)と出会い、互いの孤独を埋めるように同じ時を過ごす。しかし、セーラの愛をもってしてもベンの生き方は変わらない。理性を失うことも多く、しょっちゅう暴れては記憶をなくす。映画はその繰り返しを描いていく。

 映画『リービング・ラスベガス』は、アルコール依存症の恐ろしさを誇張なく描いている。ベンは、単なる”酒好き”ではなく、完全にアルコールの支配下にある。自分の命を縮めるとわかっていても酒を手放せない。常に顔色が悪く、アルコールがきれると禁断症状があらわれる。そんな苦悩と絶望感が、ニコラス・ケイジの一世一代の名演によって生々しく伝わってくる。

 原作者であるジョン・オブライエン自身もアルコール依存症に苦しみ、この小説を書いた後の1994年に自ら命を絶っている。アルコール依存症の恐ろしさを浮き彫りにすると同時に、主人公が抱く孤独も映し出す本作は、アルコール依存症が、単なる意志の弱さではなく、精神的・身体的な病気であることを伝えている。

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