最も面白い坂元裕二の脚本ドラマは? 台詞が心に刺さる傑作5選。テレビ史に残る名作揃い…珠玉の作品をセレクト
映画『花束みたいな恋をした』(2021)をスマッシュヒットに導き、『怪物』(2023)ではカンヌ国際映画祭の最優秀脚本賞を受賞。今、日本で最もニーズのある脚本家と言っても過言ではない坂元裕二。今回は名作揃いの坂元が脚本を手がけたドラマの中から、セリフ表現が光る作品をセレクト。魅力を解説する。(文・阿部早苗)
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【著者プロフィール:阿部早苗】
神奈川県横浜市出身、仙台在住。自身の幼少期を綴ったエッセイをきっかけにライターデビュー。東日本大震災時の企業活動記事、プレママ向けフリーペーパー、福祉関連記事、GYAO トレンドニュース、洋画専門サイト、地元グルメライターの経験を経て現在はWEB媒体のニュースライターを担当。好きな映画ジャンルは、洋画邦画問わず、社会派、サスペンス、実話映画が中心。
「人生に失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います」
『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系、2021)
キャスト:松たか子、松田龍平、市川実日子、豊嶋花、角田晃広、岡田将生、高橋メアリージュン、オダギリジョー、石橋静河、石橋菜津美、瀧内公美、近藤芳正、穂志もえか、平埜生成、岩松了
【作品内容】
建設会社の社長・大豆田とわ子(松たか子)は、三度の離婚を経験。別れた後も元夫たちとの奇妙な関係は続き、仕事や恋に奮闘しながら彼らに振り回される日々を送る。それでも前向きに生きる彼女の姿を描いたロマンチックコメディ。
【注目ポイント】
バツ3の独身女性・大豆田とわ子(松たか子)が、個性豊かな三人の元夫たちに振り回されながらも、自分らしく生きていく姿を描いたドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』。恋愛や結婚だけでなく”人生をどう生きるか”という普遍的なテーマが込められている。
とわ子の周りには、かつて夫だった3人の男性がいて、それぞれが彼女を愛し、支えつつも、別々の人生を歩んでいる。本作の魅力の一つは、とわ子を取り巻く個性の異なる3人の男のセリフ表現にある。彼らの言葉は共感を誘い、時に背中を押してくれる。
特に筆者が好きなのは、第9話における三番目の夫・慎森(岡田将生)がとわ子に告げる次のセリフだ。「人の孤独を埋めるのは、愛されることじゃないよ。愛することだよ」。
この時、とわ子は寂しさを抱えており、新たに出会った小鳥遊(オダギリジョー)との結婚を考えていたが、慎森の言葉で自分の本当の気持ちに気付かされ、結婚を踏みとどまる。
また、男たちのみならず、とわ子のセリフにも素晴らしいものが多い。筆者の心に特に響いたのが第5話だ。とわ子にプロポーズを断られた取引先の社長(谷中敦)は、彼女に心無い言葉を浴びせる。そんな彼にとわ子は、「人生に失敗はあったって、失敗した人生なんてないと思います」と、毅然と言い放つのだ。
どの作品にもキラリと光る台詞を忍ばせる坂元裕二脚本だが、名言の数において『大豆田とわ子と三人の元夫』は群を抜いている。松たか子の魅力的な演技と、ユニークな元夫たちとの複雑な関係が、視聴者を引きつける一方で、人生の節目節目で誰もが経験するような葛藤や喜びが描かれている。
放送当時はコロナ禍真っ只中だった。鬱屈した日々を送る中、このドラマに勇気づけられたという人は少なくないだろう。