感情を繊細に紡ぐ圧巻の表現力
菅野美穂
役に憑依する、凄みのある芝居で数々の名作をものにしてきた菅野美穂。彼女の原点がアイドル活動にあったことを知る人も少なくないだろう。90年代といえば「東京パフォーマンスドール」や「SPEED」「CoCo」「ribbon」など多くのアイドルグループが誕生した。
その中でも、バラエティー番組の企画から生まれ、当時のアイドル界に新風を吹き込んだのが「桜っ子クラブさくら組」だ。ちなみに女優の中谷美紀もまた、同グループのメンバーとしてデビューした者の一人だ。
デビューシングルや、その後に発売された曲はタイアップが決まるも売上はイマイチだったという同グループ。アイドルデビューから1年後に女優デビューとなったドラマが『ツインズ教師』(テレビ朝日系、1993)である。ちなみに教師を演じたのは高嶋政宏と石黒賢で生き別れた双子の兄弟という設定だ。この学校の生徒役で出演した菅野は当時15歳だった。
転機となった作品といえば、人気漫画家・萩尾望都の短編コミックを原作にしたドラマ『イグアナの娘』(1995)ではないだろうか。主演に抜擢された菅野は、母親と確執を抱える女性を繊細に演じ、芝居の巧さが一気に知れ渡ることになった。可愛らしさだけでなく、深い感情表現が求められる役柄を見事に演じきったことで、”女優・菅野美穂”としての新たな道が開かれたのだ。
筆者が思う、菅野美穂の演技の魅力は、儚さと力強さが奇妙に共存しているところにある。シリアスなシーンでは涙を誘い、コメディーでは自然な明るさとユーモアを発揮する。また、北野武監督の映画『Dolls』(2002)を観ればわかるが、心が壊れてしまい、生命力が感じられない役を演じても、ゾッとするほど上手い。
出演作を観れば観るほど、正体がわからなくなる。言うまでもなくそうした事態は、素晴らしい役者である証拠だ。