映画『ハケンアニメ!』で心に火をつけられたワケ。大河ドラマ『べらぼう』にも通づる「ものづくり」作品の魅力とは? 徹底解説
アニメ業界で闘う者たちを描いた、熱血エンタテインメント映画『ハケンアニメ!』(2022)が、Amazonプライムでの配信中。大勢の人の力が結集して1つのものを作り上げる、言葉にするのは簡単でも、実際に行うのは大変な苦労が付きまとう。今回は、「作り手」の苦悩と熱量が存分に詰まった本作の魅力を語りたい。(文・田中稲)
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【著者プロフィール:田中稲】
ライター。アイドル、昭和歌謡、JPOP、ドラマ、世代研究を中心に執筆。著書に『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)『昭和歌謡出る単 1008語』(誠文堂新光社)がある。CREA WEBにて「田中稲の勝手に再ブーム」を連載中。「文春オンライン」「8760bypostseven」「東洋経済オンライン」ほかネットメディアへの寄稿多数。
いつの時代もクリエイターは熱い!
『べらぼう』と共通点多し『ハケンアニメ!』
作品を作る、しかも大勢で1つのものを生み出すのは、本当に大変だ。
2作、気が遠くなりそうなほど高い情熱を描いたドラマを見てつくづく思う。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下、『べらぼう』と表記)、そして2月からAmazonプライムビデオで配信開始された映画『ハケンアニメ!』(2022)だ。
どちらも主役は、天才画家でも作家でもアイドルでもない。それらの人を「まとめる側」だ。
『べらぼう』の蔦屋重三郎は版元、本のプロデュース。『ハケンアニメ!』の主役は、トウケイ動画で新人監督に抜擢された斎藤瞳(吉岡里帆)。スタッフをまとめるべく駆け巡り、自分のアイデアを形にしていく。ただ、空回りだらけ、ストレス山盛りである。
『べらぼう』の蔦重はピンチがあっても「ありがた山の寒太郎でさ!」とか言う明るさがあるが、『ハケンアニメ!』の主人公・瞳は内側にこもっていく。吉岡里帆の熱演で、こちらまで胃が痛くなる。
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した彼女だが、そんな性格と、強すぎる想いの空振り、経験不足が重なりコミュニケーションに失敗。伝わらない指示で制作現場はギクシャクだ。
『ハケンアニメ!』脚本家の政池洋佑がXで、この作品について「観るユンケル」と書いていた。鑑賞後は本当に力が湧いてきて「なるほど!」と思えたが、序盤は観ていてクタクタ。「ユンケルを飲みながら観たくなる」くらいであった。
胃がいくつあっても足りなさそう…。
とにかく『ハケンアニメ!』の前半、彼女の監督ライフは「なんでわかってくれないの!」だらけである。
表情を変えず無茶な指示を出すチーフプロデューサー・行城(柄本佑)も、初盤は鬼。瞳を始め、スタッフにボソボソボソボソ、ダメージ度メガトン級の嫌味爆弾を落としてくる。柄本佑は、ああいったツンデレにもほどがある役をさせると世界一である。