史上最も「胸糞が悪い恋愛映画」は? 憂鬱なロマンス映画5選。良いことばかりが恋じゃない…生々しい恋愛模様を描いた作品たち
恋愛と一口に言っても華やかな側面ばかりではない。経験してきた方なら言わずもがなだが、やはりそこには影もある。今回はそんな恋愛の負の部分を濃厚に描いた恋愛映画の傑作をご紹介。珠玉の海外映画を5本セレクトした。(文・村松健太郎)
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【著者プロフィール:村松健太郎】
脳梗塞と付き合いも15年目を越えた映画文筆屋。横浜出身。02年ニューシネマワークショップ(NCW)にて映画ビジネスを学び、同年よりチネチッタ㈱に入社し翌春より06年まで番組編成部門のアシスタント。07年から11年までにTOHOシネマズ㈱に勤務。沖縄国際映画祭、東京国際映画祭、PFFぴあフィルムフェスティバル、日本アカデミー賞の民間参加枠で審査員・選考員として参加。現在各種WEB媒体を中心に記事を執筆。
ドライで残酷な人間描写に背筋が凍る
『ピアニスト』(2001)
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
キャスト:イザベル・ユペール、ブノワ・マジメル、アニー・ジラルド、アンナ・シガレヴィッチ、スザンヌ・ロタール、ウド・ザメル、トマス・ヴァインハッペル
【注目ポイント】
カンヌ国際映画祭で2度のパルム・ドール、さらにグランプリと監督賞を1度ずつ受賞しているオーストリアを代表する巨匠ミヒャエル・ハネケの2001年の作品。本作でも第54回カンヌ国際映画祭で審査委員グランプリ、女優賞、男優賞の三冠を達成している。
原作はエルフリーデ・イェリネクの小説『Die Klavierspielerin(ピアニスト)』。
主人公は、ウィーンの名門音楽院でピアノ教師として働くエリカ(イザベル・ユペール)。そんな彼女の前に若く容姿に優れた学生・ワルター(ブノワ・マジメル)が現れる。
厳格な母親のもとで育ったエリカは、齢39にして恋愛経験はほとんどない。そんな彼女はワルターに言い寄られ、戸惑いを隠せない。エリカの戸惑いは、拒絶という形をとるが、ワルターは諦めない。そんなある日、化粧室でワルターと2人きりになったエリカは、不意にキスをされたことをきっかけに、年の離れた教え子との情事にのめり込んでいくのだが、どうも様子がおかしい。
異性交流に不慣れな中年女性が若い男にたぶらかされる…といった展開を期待していると、肩透かしを食らうだろう。というのも、エリカによるワルターへの性的要求はあまりにも変態的だからだ。
エリカの裏の顔にショックを受けたワルターは一度は拒むものの、結局その後、彼女の性的要求に応える。翌日、再会を果たした後、エリカは思わぬ行動に出て、街中に姿を消す。持って回った言い方で恐縮だが、肝心のエリカの性的嗜好と結末の詳細は実際に映画をご覧になっていただきたい。
映画全体を通して、娘に品行方正を求める母親の過度な抑圧が入念に描かれ、主人公の異常な性的嗜好は抑圧からの痛ましい逃走手段に見える。つまり、この映画において若い男(ワルター)は、エリカを解放に導く道具のような存在なのだ。観終わった後、ハネケ特有のドライで残酷な人間描写に背筋が凍ること必至だろう。