「鬱な恋愛映画」の極北

『ブルーバレンタイン』(2011)

ライアン・ゴズリング
ライアン・ゴズリング【Getty Images】

監督:デレク・シアンフランス
脚本:デレク・シアンフランス、ジョーイ・カーティス、カミーユ・ドラヴィーニュ
キャスト:ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ、フェイス・ワディッカ、マイク・ヴォーゲル、ジョン・ドーマン

【注目ポイント】

 アカデミー賞で6部門にノミネートされた2019年の映画『サウンド・オブ・メタル~聞こえるといこと~』などで知られるデレク・シアンフランス監督が2010年に手掛けた作品。

 高校をドロップアウトしたディーン(ライアン・ゴズリング)と医学生のシンディー(ミシェル・ウィリアムズ)は出会い恋に落ちる。その後、シンディーの妊娠が明らかになると二人は結婚することに。

 しかし、シンディーの子供は彼女の元彼ボビーとの間の子供だった。ディーンはそのことを知らずに結婚し、シンディーと娘と共に新たな人生を歩もうとするのだが…。

 この映画の特色といえば、男女の出会いと別れ、幸福だった頃と関係がこじれてドロドロになった倦怠期が、凝りに凝った編集によって交互に描かれる点にある。

 1組のカップルが生まれ、破局を迎えるまでを斬新な手法で描いた本作だが、細部の演出も充実している。徹底したビジュアルの作り込みを例に挙げることができるだろう。2人が熱々だった頃を映す回想シーンでは、ライアン・ゴズリング演じるディーンは髪型をビシッと決めているが、倦怠期を迎えた現在パートでは、前髪は後退し、男としての魅力がすっかり失われているのだ。

 クライマックス。ディーンとシンディーの笑顔あふれる結婚式のシーンにつながれるのは、ディーンが家を出ていく別れのシーンである。夕暮れのどんよりした画面と子供の鳴き声が沈鬱なムードを際立たせる。

 カップルの別れを描いた近年の傑作映画である『花束みたいな恋をした』(2021)や『ラ・ラ・ランド』(2016)とは比べ物にならないほど暗い気持にさせられる、「鬱な恋愛映画」の極北とも呼べる一作だ。

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