性と死が交差する鬱屈とした世界観
『ぼくのエリ200歳の少女』(2010)
監督:トーマス・アルフレッドソン
脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
キャスト:カーレ・ヘーデブラント、リーナ・レアンデション、ペール・ラグナル、ヘンリック・ダール、カーリン・ベリィクイスト、ペーテル・カールベリ
【注目ポイント】
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストによる2004年の小説「MORSE -モールス-」を原作者自らが脚色した2008年のスウェーデン製の吸血鬼映画。原題のスウェーデン語: Låt den rätte komma in(英語では Let the Right One In)は「正しき者を招き入れよ」という意味。
母子家庭に育った12歳の少年オスカーは学校でいじめを受けており、鬱屈した日々を送っていた。
そんなある日、隣の部屋に親子連れが引っ越して来る。そこで、不思議な雰囲気をもつ少女のエリと出逢うのだ。孤独を共有する二人は自然に惹かれていく。
時を同じくして、町では猟奇的な殺人事件が相次ぐ。被害者は殺害後逆さ吊りにされ血を抜かれていた。犯人はエリの父親と思われていた男だ。とはいえ、実際には父親ではなく、吸血鬼のエリに糧(血液)を供給するために凶行を繰り返していたのだった。
不老不死の吸血鬼…という正体を持つ少女と心を閉ざした少年の恋模様、と聞くと、ディズニー映画のモチーフになりそうなキラキラした世界観を想像する人もいるかもしれない。しかし本作は、北欧映画特有のダークな映像と、感情の起伏に乏しいドライな演技でトーンが統一されており、観ていて気持ちが晴れる瞬間がほとんどない。その分、静謐な美しさが際立つ。
吸血鬼と人間の恋を描いた本作の肝は、前者にとって後者は捕食の対象であり、後者にとって前者は自身の命を脅かす存在であるという点である。オスカーが吸血鬼のエリを「受け入れる」と語る時、それは彼女の愛を受け入れるということであると同時に、死のリスクを引き受けるということでもある。エロスとタナトスが表裏一体となった素晴らしいシーンである。
2010年にはリブート版『猿の惑星』や『THE BATMAN-ザ・バットマン-』マット・リーヴス監督がメガホンを取りコディ・スミット=マクフィーとクロエ・グレース・モレッツ主演に『モールス』として再映画化された。これはリメイクではなく同じ原作の英語版とされている。