渡辺翔太は、惜しみない努力に裏打ちされた世界観の人

 オーディションの本質とは、「個性」と「世界観」の違いを見極めることではないかと思う。新たな才能を発掘するオーディションでは実は、参加者である候補生が必ずしも個性的であることは重要ではない。必要なのは、オーディション空間のひと区画を与えられた候補生が、その場でパッと自分の世界観を示せるかどうかにある。その意味で世界観とは、個性を取り扱う説明書みたいなものである。

 世界観を示す力は、ダンスやボーカルのスキルなど、テクニカルな部分とはあまり関係ない。プロの世界に入れば、高度なテクニックは大前提だからだ。たとえオーディション時点ではテクニックが不足していたとしても、限られた空間と時間内でそれを補う努力が何よりの加点対象となる。努力の見せ方が、その人の世界観だともいえる。

 その意味で渡辺翔太は、惜しみない努力に裏打ちされた世界観の人だとぼくは定義する。2005年に入所して以来、努力に努力を重ねてきた。デビュー後に立つステージ上では、その空間で持てる力のすべてを発揮するためのさらなる努力をする。その過程で彼は自分の見せ方を徹底的に磨く。友人・先輩としてやってきた菊池との対談の場でさえ「これが渡辺翔太のスタイルなんだ」とさりげなく示してしまう。その見せ方、示し方が慎ましいところに、努力の人の才能と魅力的な個性を感じる。

 最近では美容男子の側面を大きく広げ、2023年から化粧品ブランド「アルビオン」のアンバサダーに就任している。美容男子のキャラクター性は、今では渡辺翔太という世界観を構成する重要な個性である。個性とは、磐石な世界観を構築したあとにやっと意味をなす。そのことを渡辺のアンバサダー就任が証明している。

 2024年に受賞した「anan AWARD 2024」大賞は、彼の個性に対する名誉である。同年1月期は『先生さようなら』(日本テレビ系)、7月期は『青島くんはいじわる』(テレビ朝日系)でドラマ主演。俳優としても活動の幅を広げている。とはいえ、俳優活動中の渡辺もまた個性的であろうとはせず、あくまで自分の世界観(見せ方)に忠実であろうとする。俳優としても慎ましい渡辺翔太にぼくはすっかり惚れ込でいる。

1 2 3
error: Content is protected !!