クドカン史上、もっとも不運な作品
『マンハッタンラブストーリー』(2003、TBS系)
脚本:宮藤官九郎
演出:土井裕泰、片山修、坪井敏雄
キャスト:松岡昌宏、及川光博、酒井若菜、塚本高史、尾美としのり、遠山景織子、YOU、猫背椿、皆川猿時、藤原一裕、井本貴史、望月麻衣、夏川純、森本ゆうこ、松尾スズキ、森下愛子、小泉今日子
【作品情報】
テレビ局の近くにある喫茶店「マンハッタン」を舞台に、マスター、店員、そして常連客それぞれの片思いを展開していく恋愛群青劇。
【注目ポイント】
日本でも指折りの人気脚本家・クドカンこと宮藤官九郎は、『池袋ウエストゲートパーク』(2000、TBS系)や『木更津キャッツアイ』(2002、同局)など、後世にわたって語り継がれるドラマを数多く手がけているが、意外なことに高視聴率の作品はそれほど多くない。
ちなみに、『池袋~』の平均視聴率は14.9%と悪くないにしても飛び抜けて良いわけではなく、『木更津~』に至っては、平均視聴率10.1%と及第点ギリギリの数字である。
そんなクドカンのドラマの中でも、とりわけ不遇の作品がある。それが2003年にTBSで放送されたドラマ『マンハッタンラブストーリー』だ。宮藤官九郎が手がけた初めてのラブストーリーという触れ込みで、TOKIOの松岡昌宏、及川光博、塚本高史、小泉今日子と実力と人気を兼ね備えたキャストが勢ぞろいしたこのドラマ、視聴率は1話こそ10%だったものの、その後低迷し、平均視聴率は7.2%と、芳しくない結果に終わった。
低視聴率を叩き出した要因の1つは、同時間帯に名作と名高いドラマ『白い巨塔』(2003、フジテレビ系)が放送されていたからにほかならない。唐沢寿明主演のこのドラマの平均視聴率は驚異の21.10%。
完全に持って行かれた形だ。ネットを見ると「めちゃくちゃ面白かったのに、裏が『白い巨塔』で視聴率爆死という不運の名作なの」と、本作の運の悪さを嘆く声は後を絶たない。ましてや、TVer(ティーバー)のない時代である。見逃し配信の再生回数が可視化されるわけでもない。
そう、このドラマ、めちゃくちゃ面白いのだ。喫茶店『マンハッタン』を舞台に、常連客や店の店員、そして松岡演じるマスターそれぞれに焦点を当て、1話完結で片想いの連鎖が展開していく。しかも、物語はA、B、C、D、E・・・と名前をアルファベットにした頭文字順となっているなど、細かいギミックもお洒落で効いている。
多種多様な登場人物の恋模様がユーモラスに描かれ、無口なマスターの心の声やリアクションもくすりと笑え、小泉今日子をタクシーの運転手役にコンバートとするなど、キャスティングもユニークでツボを押さえている。名作ぞろいのクドカン脚本作品の中でも言及される機会は決して多くない作品ではあるが、2000年代を代表するラブストーリーの1つであると言っても過言ではないだろう。