“人間の二面性”というテーマを描く
『親愛なる僕へ殺意をこめて』(2022、フジテレビ系)
脚本:岡田道尚
キャスト:山田涼介、川栄李奈、門脇麦、尾上松也、早乙女太一、はじめしゃちょー、岩本晟夢、浅川梨奈、高橋ひとみ、桜井ユキ、岩男海史、髙嶋政宏、佐野史郎、夏子、阿南敦子、遠藤憲一
【作品内容】
「人生楽しんだもの勝ち 楽しければそれでいい」とお気楽な生活を送る大学二年生の浦島エイジ(山田涼介)。そんな彼には、15年前に日本中を震撼させた通称「LL事件」の容疑者が、実の父親・八野衣真(早乙女太一)であるという秘密があった。
八野衣は謎のメッセージを残して焼身自殺するが、あるとき彼の殺害方法とそっくりな猟奇的殺人が巻き起こる。さらに不可解なことに、エイジには殺人事件が起こったとされる期間の記憶すべてが抜け落ちていて…。
【注目ポイント】
知らないうちに、“もう1人の自分”が殺人を犯しているかもしれない──。手に汗握る、クライムミステリー『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジテレビ系)。原作は、累計130万部を突破した井龍一/伊藤翔太による同名コミック(講談社)で、全11巻をもってフィナーレを迎えている。
冒頭から、椅子に縛られ恐怖に泣き叫ぶ女性が、何者かにハンマーを振り下ろされるヘビーなシーン。とても地上波、ゴールデンタイム放送とは思えない惨劇は、強く記憶に残っている。その惨烈さもさることながら、引き込まれるのは“二重人格”をモチーフにした緻密な設定。
殺人犯かもしれない“もう1人の自分”、父親の冤罪の可能性、警察の隠蔽、意外な真犯人など。二転三転する展開で思考を揺さぶりながら、まるで主人公のエイジとシンクロするかのように疑心暗鬼になっていく。その上、これまで散々感情移入してきたエイジこそが主人格に生み出された別人格だった…という初っ端からのミスリード。その大胆さには、まんまと意表を突かれてしまった。
“人間の二面性”というテーマを体現した、山田涼介をはじめ門脇麦、遠藤憲一、佐野史郎ら演技派俳優の怪演も見どころのひとつ。“ダークサイド”と“ブライトサイド”の演じ分けは、寒気がするとともに、惚れ惚れするほど圧巻だ。
原作におけるキーパーソンが登場しないなど、諸々の改変はあるものの、一作品として高い完成度。ドラマならではの“しんぼく”の世界観を、ぜひ味わってみてほしい。