プロファイリングドラマのパイオニア

『沙粧妙子-最後の事件-』(1995、フジテレビ系)

浅野温子
浅野温子【Getty Images】

脚本:飯田譲治
キャスト:浅野温子、柳葉敏郎、飯島直子、黒谷友香、升毅、佐野史郎、蟹江敬三、山本學

【作品内容】

 岩手県巡査部長・松岡優紀夫(柳葉敏郎)は急な出動を命じられ、刑事部捜査第一課に所属する女警部補・沙粧妙子(浅野温子)とコンビを組むことに。沙粧のドライで遠慮のない物言いに圧倒されながらも、連続殺人事件の現場に残された“真紅の薔薇の花びら”への異常な反応が気になった松岡は、ともに事件を追求することを決める。

 そんな折、元プロファイリングチームのリーダーであり、沙粧の元恋人でもある梶浦圭吾(升毅)が引き起こした三年前の事件の存在を知り…。

【注目ポイント】

「人間というものがいる限り、この世界から悪意が消滅することはあり得ない。そして悪意は、目に見えないものとは限らない」冒頭から、ディープな世界観に引き込まれる『沙粧妙子-最後の事件-』。『NIGHT HEAD』(フジテレビ系)を手掛けた飯田譲治によるオリジナル脚本で、1995年にオンエアされた。

 日本でプロファイリングが導入されたのは、1990年代。のちにドラマやマンガの題材としても流行するが、いち早くメインテーマとして扱った本作は、日本におけるプロファイリングドラマのパイオニア的作品と言えるだろう。

 1995年といえば、某カルト教団による無差別テロ事件の影響もあり、マインドコントロールや洗脳が注目された年でもあった。黒幕が洗脳により若い殺人鬼を生み出していくというストーリー展開は、その暴走とどこか重なる部分がある。作中で妙子が放った「人間の本質を変える方が、りんごの品種改良より簡単だと思うわ」というセリフは、まさに本作を象徴するセリフだろう。

 90年代を投影したかのような鬱屈とした雰囲気のなか、沸き起こるのは“異常”は美しい、という感情。遺体の口には、必ず真っ赤な薔薇の花弁が詰め込まれている。生命を失った死体と生き生きと映える真紅のコントラストは、絶句するほどに美しい。とくに、香取慎吾演じる犯人が、薔薇で埋め尽くされたプールに死体として浮かんでいるシーンは、もはや神秘的…。

 そう感じてしまうことに恐ろしさを抱きつつも、美しさのなかにある狂気に魅了されてしまう。それは、猟奇殺人犯を追う刑事モノでありながら、ふたを開けてみれば究極のラブストーリーであることも理由のひとつだろう。

 一説によると、神戸で起きたとある連続殺傷事件を理由に、二度と再放送ができなくなったいわくつきのドラマでもあるとか…。当時の空気感とともに、その狂気を肌で感じてみてほしい。

(文・西本沙織)

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【了】

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