画面から狂気が横溢する「青春残酷物語」

『オールナイトロング』(1992)

田口トモロヲ
田口トモロヲ。航空会社人事担当官役の田口トモロヲは、当時多数のカルト映画に出演していた。【Getty Images】

監督:松村克弥
キャスト:角田英介、鈴木亮介、家富洋二

【注目ポイント】

「おい、そこのキミ…つまらないよね…ホントつまらない…人はコロせないしね。オンナの子を串刺しにできないし、シュショウは射殺できないし アイドルの生き血をススって食べられないし でも キミ、セイシュンは思った事を結果を恐れず実行することだって言うだろう。さぁ、思い切ってやろうよ。街へ出てさ……」

 身の毛がよだつほど過激な怪文書だ。しかし、実はこれ、とある映画のVHSのジャケットに印字された記載された(しかも監督直筆で)文章だといえば、誰もが驚くことだろう。その映画こそ伝説のカルト映画『オールナイトロング』だ。

 本作は、1982年に発生した「新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件」を題材にした作品。監督は、TVドキュメンタリーを数多く手掛けてきた松村克弥。キャストには元俳優の角田英介のほか、田口浩正やラッシャー木村、塚本晋也監督の『鉄男』(1989)で注目を集めていたカルト俳優、田口トモロヲらが出演している。

 まずは、題材となった「新宿歌舞伎町ディスコナンパ殺傷事件」について説明しよう。この事件は、新宿で遊んでいた女子中学生2人組が、ゲームセンターで声をかけてきた若い男性に車で連れ回され、うち1名が殺傷されるという事件で、殺傷された少女は首を切られていたほかアキレス腱を切断されていたことから大きな話題を呼んだ。

 記録映画出身の松村は、本事件をモデルにするにあたり、リアリティを徹底的に追求。先述のアキレス腱の切断シーンのほか、集団リンチやレイプ、SM殺人など、生々しいシーンをふんだんに盛り込むことで、映倫の審査員のみならず、社会を震撼させるほどのカルト映画に仕立てあげた。

 とはいえ本作、本質的には青春期の葛藤や社会との軋轢が描かれており、オーソドックスな青春映画のエッセンスが詰め込まれている。そういう意味で本作は、青春映画の新たな1ページを開いた作品ということができるかもしれない。

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