女性の精神的自立を描いたJホラーの知られざる名作

『オーディション』(1999)

石橋凌
石橋凌【Getty Images】

監督:三池崇史
キャスト:石橋凌、椎名英姫、沢木哲、國村隼、石橋蓮司、松田美由紀

【作品内容】

 独身のビデオ制作会社社長・重治(石橋凌)は、映画オーディションを開催し、応募者の中から再婚相手を選ぼうとしていた。そこで出会った24歳の麻美(椎名英姫)に惹かれていくが…。

【注目ポイント】

 ホラーからアクション、コメディ、サスペンスまで、様々な映画を「撮りっぱなして」きた名匠・三池崇史。そんな彼のフィルモグラフィでも一際異彩を放っているのがこの『オーディション』だ。

 原作は『限りなく透明に近いブルー』で知られる村上龍の同名小説で、主演は石橋凌と椎名英姫。米『TIME』誌が2007年に発表した「ホラー映画トップ25」では日本映画で唯一ランクイン、英映画雑誌『Total Film』の「ホラー映画オールタイムベスト50」では29位に選出されるなど、Jホラーの知られざる名作として知られている。

 「理想の相手に出会うために架空のオーディションを行う」という奇想天外な設定から始まる本作は、前半だけ見ると中年男のラブロマンスだ。しかし、物語が進むにつれて徐々に不穏な空気が漂い始め、後半で急転直下。スプラッターホラーへと姿を変える。

 特に印象的なのは山崎の拷問シーンだろう。清純で儚げな「和風美人」でありながら心の奥底に深い闇を持っている山崎。彼女が「キリキリキリ…痛いでしょう?」と言いながらワイヤー鋸で足を切断したりするシーンは、トラウマになること必至だろう。

 とはいえ本作、「怖いだけ」の作品では決してなく、根底には現代社会に対する鋭い批評眼が光っている。例えば本作のきっかけとなる「オーディション」。このシステムは、言わずもがな男性が女性を品定めするという構造をうちにはらんでいる。つまり本作では、「女性の欲望」を描くことで女性を欲望の対象として扱う既存の社会のシステムに一石を投じているのだ。

 なお、山崎役の椎名英姫は本作をきっかけに大きく飛躍。青山真治監督の『EUREKA』(2001)や塩田明彦監督の『害虫』(2002)など、数々の名作に出演した。

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