人間性を剥ぎ取られた兵士たちの顛末
『野火』(2014)
監督:塚本晋也
キャスト:塚本晋也、森優作、中村達也、中村優子、リリー・フランキー
【注目ポイント】
人類史上最大の悲劇は、今も昔も戦争であることは間違いないだろう。はじめのうちは大義をかかげて始まった戦争も、戦局が行き詰まるうちに「生きるか死ぬか」が至上命題になる。後に残るのは、人間性を引っ剥がされた痩躯の兵士たちだけだ。大岡昇平の戦争小説を原作とした『野火』はそんな戦争のリアルを描いた作品だ。
監督・主演を務めるのは『鉄男』(1989)や『ほかげ』(2023)で知られるカルト界の巨匠・塚本晋也。キャストには森優作やリリー・フランキーらが名を連ねる。
一般的に戦争映画といえばお国のために命を投げ打つ兵士たちの勇気を描くのが常だろう。しかし本作ではそんな「神話」は一切描かれない。代わりに描かれるのは、同胞の肉(猿の干し肉)を食らう疲弊しきった兵士たちであり、傷口から湯水のように湧く蛆虫であり、意地汚く生き延びようとする人間の意地汚さだ。
特に印象的なのは、本作のクライマックスのシーンでもある田村、安田、永松の三者による三つ巴のバトルだろう。三つ巴といってもバトル漫画のようにかっこいいものではない。文字通り「食うか食われるか」のこの戦いは、あまりの惨めさに乾いた笑いが漏れてしまう。
なお、塚本は、本作のインタビューで次のように答えている。
「戦争で怖いのって戦場に行ったときに自分が殺さないと殺されるので殺すという、被害で死んじゃう怖さだけじゃなくて人を殺さなきゃならないっていう怖さがすごくあると思うんです。(…)殺したり殺されたりするという究極のことが行われる場所です。その「殺す」っていうことが場が与えられるとできちゃうっていう、実は僕それがとっても信じられなかったんです。
(『野火』公式サイト「『野火』メイキング無料オンライン上映会+塚本晋也監督Q&A」より)
殺しが平然と肯定される戦場。その場では、誰もが等しく加害者であり、また被害者なのかもしれない。
(文・編集部)
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【了】