主演ドラマ『晩餐ブルース』で示す手先の細やかさ

『晩餐ブルース』第5話 ©「晩餐ブルース」製作委員会
『晩餐ブルース』第5話 ©「晩餐ブルース」製作委員会

 日頃から自炊して作り置きするという井之脇が、料理人役を演じたのが、彼にとって3度目の朝ドラ出演作『ちむどんどん』(2022、NHK総合)だった。イタリアンシェフとして端正な佇まいを印象付けていたが、『べらぼう』では今のところ、料理場面は描かれていない。

 その代わりに時の老中・田沼意次(渡辺謙)の命令を受けた平賀源内とともに、公文書を偽造する新之助の手先はかなり器用で細やかである。では、調理過程できらめく手元の細やかさと手先の器用さが重なる出演作はあるのだろうか?

 毎週水曜日に放送されている主演ドラマ『晩餐ブルース』が恰好のハイブリッド作品である。井之脇演じる主人公・田窪優太が、有名料理店を退職した友人・佐藤耕助(金子大地)と夕食の時間を共有する晩餐活動(晩活)を始める。

 2人にとって心の拠り所になるこの晩活では、基本的に耕助が調理の要を担当するが、優太も一緒に台所に立つ。料理のプロである耕助に比べたら優太の調理作業はゆったりしているかもしれない。でも、まな板上の食材を丁寧に扱う優太の手元からは温もりを感じる。

 日々の業務が山積みになるデスク上では、まな板上よりさらに細やかさを示している。テレビ局に勤務する優太は、ドラマのディレクターである。撮影準備に追われる日々。

 晩活を始めるまでは不摂生、ゴミが散乱した部屋で不衛生を極めていた。かといって大雑把なわけではない。他者に対して気を使い過ぎているくらいコミュニケーションは丁寧だし、デスク仕事として撮影台本に書き込むメモはまめまめしい。

 このメモをデスク上で書き込む場面が、第2話にある。ペン立てからボールペンを取り、動くペンが自動的に紙面上を走るように書き込み、ノックボタンをカチッとするまでほんの5秒間ほどだが、その手元と手先が自動筆記的な生々しさで不思議と人目を惹く。

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