「洗脳」を描いた恐ろしい日本映画は? サイコスリラーの傑作5選。観たら後悔する…? トラウマ級の作品をセレクト
映画はこれまで数々の悪人を描いてきたが、中でも、自身は手を下さずに、マインドコントロール下に置いた他者を加害者に仕立て上げる心理操作に長けた頭脳犯ほど恐ろしい存在もないだろう。そこで今回は、洗脳をテーマにした日本映画を5本セレクト。それぞれの魅力を解説する。(文・阿部早苗)
——————————
【著者プロフィール:阿部早苗】
神奈川県横浜市出身、仙台在住。自身の幼少期を綴ったエッセイをきっかけにライターデビュー。東日本大震災時の企業活動記事、プレママ向けフリーペーパー、福祉関連記事、GYAO トレンドニュース、洋画専門サイト、地元グルメライターの経験を経て現在はWEB媒体のニュースライターを担当。好きな映画ジャンルは、洋画邦画問わず、社会派、サスペンス、実話映画が中心。
『創世記』を反復するような3人の男女
『ビリーバーズ』(2022)
監督:城定秀夫
原作:山本直樹
キャスト:磯村勇斗、北村優衣、宇野祥平、毎熊克哉、山本直樹
【作品内容】
宗教団体「ニコニコ人生センター」に属する三人は、孤島で修行生活を送っていた。指令に従い瞑想や実験を続けるが、極限状態で欲望が露わになり、平穏だった関係は徐々に崩れていく。
【注目ポイント】
多彩なジャンルを手がけることで知られる監督・城定秀夫。ピンク映画出身でもある城定の手がけた作品は、官能要素を取り入れながらも、コメディ、サスペンス、ヒューマンドラマなど、多数の要素を巧みに組み合わせ、独自の世界観を構築している。
漫画家・山本直樹の同名漫画を原作とした本作のあらすじは、カルト宗教を題材にし、安住の地を目指すための修行としての”浄化”と称し、無人島で男女3人が共同生活を送るというもの。3人は互いをオペレーター(磯村勇斗)、副議長(北村優衣)、議長(宇野祥平)と呼び合いながら、日々、見た夢の報告や瞑想などを行う。
DVや虐めなど、耐えがたい現実から逃れるようにして新興宗教団体「ニコニコ人生センター」の信者になった3人。孤島ではわずかな食糧で生活しなければならず、外界から隔絶した閉鎖的な環境に置かれることによって考える力は鈍麻の一途を辿り、正常な判断能力が失われていく。これは、実際のカルト集団に見られる洗脳の典型的な手法でもある。
最初は規律を守り、粛々と「修行」に励んでいた3人だったが、長期間にわたる禁欲生活によって抑圧されたリビドーが徐々に姿をあらわす。磯村勇斗演じるオペレーターは、副議長の濡れたTシャツ姿を目にして、異性として意識せずにいられなくなり、孤島の風紀はにわかに乱れ始めるのだ。閉ざされた空間で人間の根源的な欲望を浮き彫りにしようとする本作の試みは、『創世記』に記されたアダムとエバの逸話のパロディのように映る。
過激な性描写の中に、人間のおかしみを浮き彫りにするのは、本作の原作コミックを手がけた山本直樹の真骨頂だろう。