継承されるマインドコントロールの能力

『CURE』(1997)

役所広司
役所広司【Getty Images】

監督:黒沢清
キャスト:役所広司、萩原聖人、うじきつよし、中川安奈、洞口依子、戸田昌宏

【作品内容】

 娼婦の惨殺事件を追う刑事・高部(役所広司)は、被害者の胸をX字に切り裂く手口が連続していることに疑問を抱く。催眠暗示の可能性を探る中、記憶障害の男・間宮(萩原聖人)が浮上。彼の話術により次々と殺人が誘発され、高部は翻弄されていく。

【注目ポイント】

 ホラーサスペンスの巨匠として知られる黒沢清監督。1997年に公開された映画『CURE』は黒沢監督が国内外から高く評価され、その特異な作家性を広く知らしめるきっかけとなった。

 X字に切り裂かれた異様な遺体が続々と発見される。そんな中、記憶障害を持つ男・間宮が容疑者に浮上する。精神障害を患う妻を持つ刑事の高部は、間宮の取り調べを担当するが、何を訊いても「あんた誰だ?」とはぐらかされ、取り付く島もない。

 間宮は特定の動機を持たず、ただ曖昧な会話を繰り返すだけなのに、彼と接触した者たちは次々と殺人を犯してしまう。彼の問いかけは相手の内面に潜む暴力性を引きずり出すのだ。例えば、間宮の診察にあたった女医(洞口依子)は、男性優位な医者の世界で女性だからという理由で差別されてきた過去を言い当てられ、マインドコントロールにかかり、無意識のうちに男性を殺害する。

 高部が捜査を続けていくうちに、間宮が医学生であり、「メスマー」というヨーロッパの催眠療法の使い手を研究していたことが明らかになる。ちなみに、このメスマーは、18世紀から19世紀にかけて実在したドイツの医師、フランツ・アントン・メスメルをモチーフにしている。

 間宮と対話をした人間はことごとく殺人者に変貌してしまう中、不思議なことに、主人公の高部だけは中々殺人者にならない。間宮は高部がうちに秘める底知れぬ憎悪(高部は精神を病んだ妻を目にかけているようで、心の奥底では重荷に思っている)に気付いており、自身を超える「伝道師」としての資質を見出すのだ。

 映画の終盤では、間宮から高部へマインドコントロールの能力が継承され、身の毛もよだつような光景が繰り広げられる。Jホラーブームの立役者の一人による卓抜な演出で描かれるラストシーンは鳥肌モノ。ぜひ各自の目で確かめてもらいたい。

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