ピュアな心に付け入る洗脳の恐ろしさ
『死刑にいたる病』(2022)
監督:白石和彌
キャスト:阿部サダヲ、水上恒司、岩田剛典、宮﨑優、鈴木卓爾
【作品内容】
理想とかけ離れた大学に通う雅也のもとに、24人を殺害し死刑判決を受けた榛村から手紙が届く。彼は最後の事件の冤罪を訴え、真犯人の証明を依頼。雅也は過去の記憶を頼りに独自の調査を始めるが…。
【注目ポイント】
櫛木理宇の同名小説を原作に、『凶悪』(2013)『孤狼の血』(2018)などの白石和彌監督がメガホンを取った。暴力的な描写や人間の暗い側面を描くことに定評のある白石監督。本作では、榛村(阿部サダヲ)という連続殺人犯の得体のしれない心の闇に分け入る。
24件の殺人容疑で逮捕され、すでに死刑判決を受けていた榛村は、元々、雅也の地元でパン屋を営んでいた。榛村は自らの罪を認めながらも、最後の事件に関しては冤罪だと主張し、真犯人が他にいることを証明してほしいと雅也に頼む。
当初、榛村を怪しく思っていた雅也が、次第に榛村の考えに取り込まれていく過程は恐ろしいの一言。榛村の洗脳を受けて、榛村の手足となった雅也は彼の要求どおりのアクションを起こさざるを得なくなっていく。しまいには、榛村が自身の本当の父親ではないか? とまで思い始める始末だ。
こんな嘘のような展開に引き込まれてしまうのは、阿部サダヲの不敵な芝居もさることながら、水上恒司の誠実さが伝わる演技の賜物だろう。
榛村の本当の目的は他人を意のままに操ることにしかなく、あまつさえ、他人を操ることに快感を覚えているようにすら見える。なんと刑務官までをも洗脳し、自身の支配下に置いているのだ。
映画は最後まで榛村の死刑が執行されるのか否かを明らかにせず、宙づりにしたまま幕を閉じる。しかし、本作のエンディングが恐ろしいのは榛村の生死が不明であるからではない。ラストで雅也は、彼女である灯里の鞄から榛村の手紙を見つけてしまう。そう、榛村のマインドコントロールの餌食になっていたのは雅也だけではなかったのだ。
観る者を憂鬱な気持ちにさせる絶望的なオチは必見だ。